クルマ好きという以上に、運転そのものが好きなんです。 その1
VOL.9_2
菰田 潔
1950年生 神奈川県出身
学生時代の20才よりレースを始め、FJ1300まで走る。26才でタイヤのテストドライバーに専念。その後フリーランスのモータージャーナリストとして独立し活躍中。日本自動車ジャーナリスト協会副会長のほか、JAF交通安全委員会委員、セーフティドライビング・インストラクター・アカデミー会長、警察庁運転免許制度に関する懇談会委員、BMWドライバートレーニング・チーフインストラクターなどの肩書きを持つ。著書に「ドライビングの常識・非常識 あなたの運転ここが危ない!(日本実業出版社)」などがある。
モータージャーナリストとしてAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)の副会長を務める一方、多くのドライビングスクールのインストラクターとしても活躍する菰田潔氏。
レーシングドライバー、タイヤのテストドライバーなどの豊富な経験に裏打ちされた
理論的なドライビングテクニックから「プロフェッサーこもだ」として
多くの受講生から慕われている。
去る10月14日、AJAJ主催による「母と子の楽ラク運転講習会」が
東京プリンスホテルの駐車場で開催された。
菰田氏はAJAJ会長の日下部保雄氏、
理事の萩原秀輝氏とともに中心メンバーとして企画・運営に携わる。
今回はその会場に菰田氏を訪ねた。
運転に興味がない人にも。
このイベントはAJAJの安全部会が音頭をとり、メンバーがインストラクターになって“みんなボランティアで1年に1回社会貢献をしよう”という活動で、今年で8回目になります。受講される参加者も無料。これを支えて下さっているのがブリヂストンさんをはじめ、車メーカーさんやスポンサーになってくれている様々な企業さんです。メンバーがみんなで『広報車も出して』『人も出して』『プレゼント品も』って圧力というか、立場を利用してっていうか、お願いして協力をいただいています(笑)。
いろんなドライビングスクールがありますけど、参加者はほとんど男性でクルマ好き、運転好きな人。そういう人向けのスクールはたくさんあるわけですが、安全にクルマを使ってもらうには“運転に興味がない”という人達にこそスキルアップしてもらうことが必要なんです。それを我々がやらなければいけないんじゃないか、というのがイベントの発端です。まず、運転に興味がない人やドライビングスクールに行こうと思わない人に来てもらいましょうと考えた時に“お母さん”というキーワードが出てきたんです。お母さんは子育てに忙しくて運転に興味を持てない。“自分ではとばさないからいいわよ”って思っていても、その運転が本当に正しい運転なのか、いざという時に事故を回避できるか、急ブレーキをかけられるか、というように見た時に危ないわけですよ。
子どものうちから。
もう一つは次の世代。やっぱり交通安全の要になるのは子どもだから、シートベルトをする、チャイルドシートに座る、というように車の基本的な乗り方を子どものうちから躾けてもらおうということ。そうすれば車の免許をとった時にも、シートベルトを自然にするようになるんじゃないかという狙いで「母と子の楽ラク運転講習会」というイベントにしたんですよ。もちろん、お父さんも来たいという要望もあるし、こちらも家族で来てほしいわけなんです。家族で体験すれば「じゃあみんなで一緒にシートベルトしようね」と家族全員がシートベルトをするんです。だから“お父さんもご一緒に”っていうサブタイトルがついているんです。
講習の最初に教えるのはドライビングポジションですが、それがちゃんとしていないと車庫入れも上手く出来ないし、一般道も上手く走れないし、サーキットを走りたい人もまず、そこからトレーニングをするんです。“腰をシートに密着させる”“フットレストをいっぱいに踏んだ時、膝がしっかり曲がっている”“ハンドルを12時の位置で握った時に軽くひじが曲がっている”“シートの高さを合わせてアイポイントを決める”“ヘッドレストを耳の位置にあわせる”と、そこが基本なんですが、運転に慣れてくるとだんだん忘れてしまう。それをもう1回見直すという意味でもお父さんもご一緒にって誘って、レクチャーを聞いてもらいたいんですね。
後部座席もシートベルト。
次に重要なのは後部席も含めて全員がシートベルトをする、ということ。そうすれば、いざという時に急ブレーキをかけても何ともないわけです。シートベルトしていないと後部席の人が気になって急ブレーキをかけられず、ぶつかってしまうこともありますから。日本ではまだまだ後部席の人がシートベルトをするのは少ないですね。
僕はタクシーに乗ってもシートベルトをするんですけど、タクシードライバーはプロなのに「お客さんしなくていいですよ」ってわざわざ振り向いて言うんです、9割くらい。運転手からすると、お客さんが面倒臭いだろうみたいなところもあるし、バックルが出ていると「邪魔だ」とお客に怒られるからバックル引っ込めちゃう。客もいけないんだけど、運転手もいけない。海外はほとんどの国が後部席のシートベルト未着用にも罰則があるんです。だから、後ろの席でシートベルトをしやすいような環境を作るためには法制化は必要だと思うんですね。
今回のイベントでは約40家族、120名くらいの参加をいただきました。普段できない急ブレーキ体験なども含めて、安全運転や運転に対する認識を高めていただけたと思います。日本は残念ながら、プロといわれる人も含めて、まだまだドライバーの安全運転に対する意識が低いといわざるを得ません。“上手い運転とは何か”という、ドライバー自身の意識を高めていかなければならないですね。(以下次号)