「思うだけでは叶わない。アクションを起こせ。」 その1

VOL.28_1

青木 拓磨 

1974年2月24日生まれ、群馬県出身
小学校3年生からポケバイを始め、95年にホンダワークスHRCと契約、97年から世界選手権ロードレース500ccクラスを戦った。同年は表彰台2位1回、3位2回でシリーズ5位を獲得した。しかし、98年テスト中の事故により脊髄損傷。長い努力の日々を重ねて、今年限定なしの国内A級ライセンスを取得し、
14年ぶりに国内レース復帰を果たした。
http://www.takuma-gp.com/

将来のことに関して、あきらめてしまうのは簡単で生産性のないことだ。
たとえ1%でも可能性があるなら「まずはやってみる」が青木拓磨流。
98年、いわば全盛期の青木を襲った事故――
脊髄を損傷して車椅子生活を余儀なくされた彼は
絶望と向き合いながらも前に進むことを決意。
五体満足の人には想像でいない苦闘を重ねて
今年、スーパー耐久レースという舞台で念願の国内レース復帰を実現した。

夢はル・マン参戦。

今年、スーパー耐久シリーズにデビューすることができました。参戦はSTクラス4で車両はインテグラ。エンケイさんにもサポートを受け、夢への一歩を踏み出せました。チームメイトは土屋武士選手。彼とは長い付き合いで、今回のS耐デビューをはじめ、そこまでの準備においてもいろいろと協力してもらってきました。彼と一緒に本気で来年はスーパーGT参戦、再来年はニュル24時間レース、そして3年後にはル・マン24時間レースに一緒に参戦しようと計画を立てています。傍から見れば無謀な挑戦ですが、絶対に実現させてみせます。
 なぜ無謀と思われるか?それは僕が車椅子ドライバーだからでしょう。世界選手権ロードレースの500ccクラスを戦っていた1998年、テスト中に転倒して脊髄損傷の負傷をして、それ以降は車椅子生活を余儀なくされました。
 今年のS耐に関しては「グイドシンプレックス」という機構を使ってマシンをドライブしています。これは元F1ドライバーの故クレイ・レガッツォーニがプロデュースした機構で、ステアリング上のボタンを使ってクラッチを操作、ステアリング背面にあるリングによってアクセルコントロール、ステアリングボスの横から生えるレバーを使ってブレーキを操作するもの。要は両手だけで車の運転ができる機構です。GT‐Rだったりポルシェにも付けられるシステムで、ちょっと強いトリプルクラッチのような操作ができます。ただ、そうは言っても市販車向けの製品なので、もっとレースをしていくことによって改良して、それをお客さんにフィードバックして、僕のように車椅子になってしまった人がハンドドライブでスポーツカーを使ってドリフトしたり、サーキットを走ったりできるようにしていかなければと思っています。

当てにしていた参戦車両が使用できないハプニングを乗り越え、そこから怒涛の準備でS耐開幕戦デビューを果たした。

周りにいてくれた皆。

スーパー耐久のデビュー戦はトラブルもありましたが、何とか9位で完走できました。結果よりもまず、国内レースを走れたということの感激が強かったですね。車椅子生活になって、2輪は難しくても4輪ならと、ずっとライセンス申請をしてきたので。そのための下積みも長かったんです。HDX(ハンド・ドライブ・クロス)という手動カートでのレースを05年以降続けて実績を残して、国内Aライセンスを取得しましたが、僕の場合は「競技会限定」という限定付きライセンスしか下りなかったんです。競技会限定ということは、皆で一斉にヨ~イ、ドンってするレースに出られないってこと。ジムカーナやラリーといったスピード競技しか出られないんです。それが悔しくて……。だから自分はレースに出ても危険じゃない、ちゃんと走れるんだっていうのをまずは証明する必要がありました。
 昨年はヴィッツのナンバー付きレースでひたすら結果を残そうと土屋選手と一緒に参戦してきました。ナンバー付きレースは限定付きライセンスでも参戦できるんです。それでようやく、今年の申請で僕の国内Aライセンスから「限定」が外れ、スーパー耐久シリーズ参戦が実現したんです。
 今回のレース参戦に向けて後押しをしてくれた人もたくさんいます。まわりにいてくれた土屋選手、高木虎之介選手、脇阪寿一選手、本山哲選手もそうだし、ケガをしてからも同じ対応をしてくれて、彼らは「お前はかわいそうだ」という目では見なかった。「やっていこうぜ」という温かい目。可能性として、まだコイツはやるんじゃないかと期待してくれていたところもあった。復帰を願ってくれたファンもそうだし、まわりの人の助けもあったし、JAFの中でも動いてくれる人もいた。だからこそ実現できたことですからね。ホント、たくさんの人に「ありがとう」って気持ちでいっぱいです。

「グイドシンプレックス」という機構を装着した車両。通常は両足で行うペダル操作を両手でできる。ただ、両手両足を使う操作を両手のみで行うため、走行中の青木選手はかなり忙しい。

国内Aライセンス取得に向けて、昨年はナンバー付きのヴィッツレースに参戦して実績を残した。その積み重ねが夢への一歩を実現した。

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