「未完成から生まれる“努力”そこに楽しみを感じられるか。」 その2

VOL.25_1

松田 次生 

1979年生まれ 三重県出身
14歳からレーシングカートを始め、97年にSRS-F卒業。98~99年全日本F3参戦、99年のF3マカオGPでは総合4位を獲得した。00年からフォーミュラ・ニッポン(07~08年チャンピオン獲得)、スーパーGTの国内最高峰レースに参戦し、両カテゴリーでトップドライバーとして活躍中。現在の愛車はフェアレディZ 。
http://www.tsugio.com/

デビュー3戦目のルーキーで優勝を手にした松田次生選手だったが
国内トップフォーミュラはそれほど甘い世界ではなかった。
勉強を怠り成績は転落。気づけばどん底まで落ちてしまっていた。
そこからの再生の中で強さを磨き今の地位に辿り着く日々と
彼が日常的に車とどう向き合ってきたのかを今回は語ってもらった。

フォーミュラ好き。

国内最高峰のフォーミュラ・ニッポンでどん底をさまよう中、上昇の兆しが結果として現れたのが05年の最終戦、地元の鈴鹿サーキットでのレースでした。常勝のチームインパルやナカジマレーシングを押さえて、僕がポールポジションを奪ったんです。自分が勉強してきたことがようやく形になったとあの時は思いましたね。
 最終的にその時のポールポジションが、僕のレース人生の大きな転機になりました。翌06年にチームインパルへ移籍することになり久々に優勝することができ、07~08年は全日本チャンピオンを2年連続で獲ることができたのですから。
 どん底での痛い経験は今でも忘れていません。自分に過信しない、努力なしに1番にはなれない。それは僕の中に深く刻まれています。決して満足しないというか、常に完成形を目指すけど優勝したら完成というわけではないのです。向上心を失ったら、レースという世界では長く生きられないことも学びました。
 00年から全日本GT選手権(現スーパーGT)にも参戦していますが、僕はやっぱりフォーミュラが好きですね。フォーミュラマシンって、すべてが速く走るために作られたものじゃないですか。一般車だとパワステやエアコン、カーナビが付いていたり、いろんな装備があります。それは快適を求めるためだから否定はしないけど、フォーミュラはまったく違うコンセプト。自転車で例えるなら、3万円の街乗り自転車と30万円のロードバイクほど違う。そこで求められるのは純粋に速さのみ。そんな世界に身を置いていることが一番の幸せでもあります。

現在、サーキットや契約するファクトリーへの移動で使っている愛車のフェアレディZ。「本当はもっと手を入れたい」というが、最小限のチューンに留めている。

Zを選んだ理由のひとつがマニュアル車であること。「日常の運転でも操る楽しみを感じたい」。最近はロードバイクも購入して、時間があれば都内を走り回っている。

自分だけの1台。

レースの世界で研ぎ澄まされた車に乗ってきた影響もあると思います。日常ではやっぱりスポーツカーに惹かれてしまいますね。とはいえ、免許を取ってすぐに買ったのがシビックEG。お金がなかったのでタイプRは手が出なくて(笑)。その後00年にインテグラのDC2タイプR。04年にインテグラのDC5に乗り換えて、ニッサンに移籍してフェアレディZを借りて、そこでZって面白いなって感じたんですが、すぐにムラーノに乗り換えることになりました。ムラーノもすごくいい車だなって思うんですが、オートマ車って何か退屈なんですよね。マニュアル車は街中でもブレーキを踏まず、エンジンブレーキだけで止まれる。今のオートマ車はシフトチェンジの制御も上がってはいますが、僕の中ではやっぱりマニュアル車に乗らないと車を操っているっていう感覚を得られないんですよ。だから、またフェアレディZに乗り換えることにした。それが今の愛車です。最近デフをいじったり、スポーツ触媒を付けたりコンピュータを換えたり結構いじってます。ただ一番手を入れたのは、初めて買ったシビックですね。自分で買った最初の車というのもあり、相当愛着がありましたからね。
 足回りはもちろん、ロールバーを入れたり、サーキット走行のための牽引フックを付けたり、コンピュータやマフラー系まで……。車って応えを返してくれるんですよね。レースで言うセッティングもそうなんですけど、自分が乗っていてこうしたい、このパーツを付けたらこうなるっていうのが分かってくるとすごく楽しくなるんです。それでもっともっと愛着が沸いてくるっていうのがありますよね。手放す時はかなり悲しかったです。
 その最初に買ったシビックは一番安いグレードだったので、本当に何も付いていませんでした。でも、それがすごく車へのモチベーションになった部分はありますね。これにカーナビ付けるために仕事を頑張ろう、足回りを換えるために仕事を頑張ろうって思えるんですよ。
 最初からできた車を買ってしまったら、こういう気持ちは味わえません。人間て完成したものを手にすると、すぐに飽きてしまうんですよ。完成していないものに対してはこうしたい、こうやっていきたいって思うじゃないですか。同じ車種って日本国内でもすごい台数がいるわけです。でも自分好みのエアロを付けたり、ホイールを換えたり、内装に手を入れたり、それだけで自分だけの1台になります。未完成なものを完成形に近づけていく過程を楽しめるか。人生においても車との付き合いにおいても、それが一番大切なことだと僕は思っています。

ディフェンディングチャンピオンとして臨んだ08年。圧倒的な強さは最後まで衰えることなく、見事にフォーミュラ・ニッポン連覇を達成した。

今年はフォーミュラ・ニッポンマシンが一新。シャシーがヨーロッパのローラ社製からアメリカのスウィフト社製に変更され、求められるドライビングも変わった。勝利が遠く「少し苦労している」が、3連覇への気持ちは薄れない。

今年のトヨタモータースポーツ活動計画では、2連覇チャンピオンとして出席。03~05年のどん底をさまよった頃とは打って変わって、日本モータースポーツ界のトップへと駆け上がった。

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