「性別、国境を越えて私を未知なる世界へ誘った車たち。」 その2

VOL.24_2

まるも 亜希子 

千葉県出身
大学卒業後にTipo編集者となる。00年に国内A級ライセンスを取得、以後ジャンルを問わず様々なレースに挑戦。03年に独立して現在はカーライフ・ジャーナリストとして活躍。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。愛車はポルシェ968。
http://www.hobidas.com/blog/tipo/marumo/

大学時代に購入した「ビートル」をきっかけに
それ以前とはまったく異なる世界と接点を持つようになったまるも亜希子さん。
雑誌「Tipo」編集部入社。
そこで担当した仕事の延長線上にあったのは
想像したことがなかったモロッコで開催されるラリー参戦。
今回はその異国で体験した過酷な8日間と
ラリーを通して見えてきた自分の将来を語ってもらう。

どんどん野性化する自分。

私のカーライフで、もうひとつ忘れられない体験があります。サハラ砂漠を走るガゼルラリーに突然、参加してしまったんです。国際格式ラリーなのですが、ライセンスが必要なく普通免許を持っている女性なら誰でも出られるっていうもの。以前のパリ・ダカールラリーと同じような場所を走るんですけど、距離は4分の1ぐらいの2500km。それを8日間で走り切ります。
 参戦する前年、ガゼルラリーへ取材に行ったパリ在住のライターの方がティーポ編集部に記事を売り込みにきて、そのページの編集を担当したのが私だったんです。写真を見た瞬間に引き込まれて、すごく憧れてしまったんです。その頃、自分自身のことで迷っている時期で、私もここに行けば何かが変わるかもしれない、と。写真の中の女性たちは、砂丘のど真ん中で車がスタックして汗だらけ砂だらけになりながら一生懸命に砂をかき出して……強い日差しが降り注ぐ過酷な世界の中でも失われない目の輝きが印象的でした。
 参戦車両はニッサン・サファリ、現地名はパトロールという3リッターディーゼルターボ車両をニッサン・ヨーロッパさんに提供していただきました。規則でGPSが禁止されていて、縮尺10万分の1ぐらいの地図と方位磁針しかラリーでは使えないどころか、その日のチェックポイントも当日朝に緯度、経度で発表されるんです。砂漠なので、それほど大きな目印があるわけでもなく、日本で言う道路もありません。車が通って踏み固められた獣道、砂漠、岩漠、踏むとパンクするようなトゲトゲのラクダ草が生えている草原を走ったり、川を渡ったり、想像以上に過酷でした。おもしろかったのが時間が経つうちに自分が野生化していくこと。たとえば、ここからあの山が何km先かなんて日本で生活していたら分からないじゃないですか。でも、あの距離だったら1.5kmぐらいかなと分かってくる。どこ見ても一緒のような景色だったのが、ここさっき通った場所だなっていうのも分かるようになってくる。どんどん野性化する自分に驚きでした。
 日本人チームは私たちだけで他は欧米中心。その大陸感覚を間近に見て、圧倒されました。狩猟民族、農耕民族の違いなんでしょうか? 欧米の女性たちは、私が死に物狂いで参戦するガゼルラリーを「バカンス」って言うんです。涼しい顔でワインを飲みながら「こんな砂漠の真ん中でラリーができるのって、人生でたった8日間しかないんだから楽しまないと」ってさらっと言ってしまえる。それって普段からの車との関わり方がちゃんとできている上でラリーに来ているからこそ言えること。そういう車先進国の女性と出会えたことは私にとって大きな経験でした。

最近は中国にハマっていて、4月にも上海オートショーを取材したばかり。昨年の北京と比べても中国メーカーの完成度はレベルが飛躍的にアップしており、人々がクルマへの憧れや興味をどんどん募らせている過程という雰囲気も、とても興味深いので目が離せないと注目している。

2500kmの行程で最も難しいのが砂丘地帯。低速すぎるとタイヤが埋まってしまうが、先の地形が見えないのでむやみにスピードも出せない。蛇行しながらの独特な走り方が求められる。

ラリー車にはビーコンが搭載され、緊急時にスイッチを押すと救助を求められる。「1年目の04年は2日目に押すはめに……。砂丘で大ジャンプをしてしまい、車も壊れパートナーもケガをしてしまったんです」。

チャレンジし続ける。

今でも忘れられないのが子供たちの顔ですね。モロッコってそれほど裕福な国ではありません。サハラ砂漠にはベルベル人っていう原住民がいて、その子供たちは車のエンジン音が聞こえると「食べ物をくれ」「水をくれとか」「頑張れ」とか言いながら遠くから走って集まってくるんです。裸足で、着ているものはボロボロ。食べるものもろくにないけど、生きることに真剣な姿勢がすごく感じられて日本での自分の生活や考え方を改めなければって感じましたね。あと車を見る子供たちがすごく笑顔なんです。車って子供たちを笑顔にすることもできるんだっていうのも初めて知りましたね。
 うれしいのが、今年になってある女性から「ガゼルラリーに出てみたいんですけど、相談に乗ってもらえませんか」と連絡をもらったこと。最近の日本では、無謀な夢に向かっていく女性が少ない気がします。お金のためでも誰かのためでもなく、自分のために挑戦する人が少ない。皆、どこか安定志向で「何かあったらどうしよう」と挑戦する前から心配ばかりしてる。だから、その連絡があって本当にうれしく思いました。
 まだ形は見えないんですが、そういったチャレンジする女性の応援というのも今後私がやっていきたいことのひとつです。自分の好きな車を1台買うのも立派なチャレンジ。世界が変わり、人生が変わります。自分の経験を通して、私なりの伝え方やサポートで日本の女性を応援していければいいなと思っています。

このガゼルラリーで、まるもさんは日本人チームとして初挑戦、初完走という記録を樹立。挑戦したいという自らの衝動だけで進めてきたが、「やっぱり挑戦して良かった」と思える感動がゴールの先にはあったという。参戦は04、05年の2回。

ティーポ編集部を卒業して現在のカーライフジャーナリストになってからはラジオ出演やトークショー、講演なども数多くこなし、自らの経験を通して日本の女性へメッセージを発信。写真は08年の東京オートサロンでのMAZDAブースでのトークショー。観客の反応を確かめながらのライブ感覚が好きだという。

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