身体ひとつでは体感できない領域、スポーツカーはそこを見せてくれる。 その2

VOL.23_3

藤島 知子 

神奈川県出身
幼い頃からのクルマ好きが高じて、スーパー耐久のレースクイーンを経験。その一年後、サーキット走行はズブの素人だったにもかかわらず、ひょんなことから軽自動車の公認レースに参戦することになる。以来、レースの素晴らしさにどっぷりハマり、現在は自動車雑誌やWeb媒体で執筆活動する傍ら、箱車にフォーミュラカーにと、ジャンルを問わずさまざまなレースに参戦している。
日本自動車ジャーナリスト協会会員、2008-2009カーオブザイヤー選考委員
藤トモ通信web
http://www.hobidas.com/blog/tipo/fujitomo

レース一年目ですっかりレースにハマってしまった藤島知子さん。
そこからわずか4年でフォーミュラ隼のカテゴリーまでステップアップした。
'08年からは出演しているテレビ番組の収録が土曜日となるため
「年間のシリーズ戦は難しいし、ましてやスポンサーを集めてのレースは
毎回走ることが条件になってくるので」と現在はスポットのレースを中心にエントリーしている。
今回はレースの中で培ってきたことやジャーナリストとしての思いなどを伺った 。

本気でレースに取り組む。

レース二年目にはフォーミュラスズキKeiスポーツにも参戦しました。ただ、メーカーさんが雑誌の企画に車輌を貸してくれるのは最初の一年だけなので、翌年も走りたくて「雑誌でレポートします」とディーラーさんに企画書を持ってお願いに行きました。 
 スズキのワンメイクレースはさらに「フォーミュラ隼」という頂点カテゴリーがあって、次はそれに乗りたくなるんですよ。ちょうどフォーミュラKei二年目の最終戦の時のこと。結果がだせず悔しくて泣いていたら、なんと、たまたま通りかかった隼のオーナーさんが「来年自分は乗らないから、よかったらレンタルしますよ」って声をかけてくれたんです!「悔しい思いを来年晴らしたいでしょ?」っていう感じで。
 それまでは雑誌の企画での参戦でしたが「フォーミュラ隼」は自分で本格的にやろうと決心しました。Keiとは排気量もパワーも全然違うし、ちゃんとした体制でやらないと、と思ったんですね。レースに集中したいので記事は書かず、スポンサーを自分で集め、メンテナンスを筑波のガレージにお願いしました。ドライビングテクニックは人によって言うことが違うので、何が自分に取って正解かわからずにモヤモヤしていたんですが、レースのプロ集団がいるガレージに入って、それを確認する場ができたことで、本当の走りの基本を学ばせていただくことができました。自分の中でバラバラだったものが一つにまとまってきたんです。

現在の愛車はフィアット500。「スポーツカーじゃないんですけど、小さなエンジンでパワーを使い切るノビノビとした走りが凄く気に入ってます。そこにイタリアンデザインのかわいらしさがプラスされて、色んな人に暖かく見てもらえる。そんな魅力を感じているクルマですね」。

レースデビュー2年目の'03年にはKei sportsに加えて、Kei660ccエンジンの「フォーミュラスズキKeiスポーツシリーズ」にも参戦。 「はじめてのスリックタイヤだし、ハコと全然違うので、難しかったですね」。

恐さを取りのぞく。

レースって普段自分の弱いところが出てしまうんで、自分が思うレベルに持っていくには、自分をコントロールしていかないと成し遂げられないと思ってきました。だから人と戦うというより、自分と戦っていたっていう感じです。勝つという結果よりも、まずそのコーナーをどれだけうまく走るかによってタイムが縮む。そこに喜びを見い出していたんです。クルマがクルマである限り、キチンと走らせてあげたいし、女だから運転が下手と思われることが嫌だったっていうのもありましたね。
 基本的には、恐さを取り除くっていうアプローチをしてきました。恐いからアクセルを踏めない。それなら恐くない姿勢に持っていって踏んでいければいい、というふうに恐さの原因を探りながら、いかに恐くなく気持ちよく走れるのかっていうことを目指してきた感じですね。
 ロードスターのパーティーレースで優勝したときは、これで正しかったんだって、自分のことをちょっとだけ認めてあげられました。
 '08年4月からテレビ番組に出演していますが、テレビっていう媒体は専門誌と違って、一般の人がぱっと見て入っていける世界なんです。クルマは難しい言葉が分かる人たちだけのものじゃなく、みんなでわかりやすく楽しみたいじゃないですか。クルマは「楽しいよ」っていうことを広めたいという私の目的のためには、テレビという媒体は非常に有効なんですよ。それを女性ならではの視点でいろんな人にアピールしたいんです。声を大にして言いたいのは「運転が苦手だ」っていう女性もちゃんと運転が楽しめるんだよ、「運転が下手だ」って頭ごなしにいわれてる人でも、そんなことはないんだよっていうこと。それをお伝えしたいし、女性だって、スポーツカーをカッコ良く乗って欲しいんです。

05年、“フォーミュラ隼”にステップアップ。モーターサイクル用1300ccエンジン搭載の本格的フォーミュラカー。「横Gも大きくなるので首が太くなりました(笑)」。2006年シーズンシリーズ4位。

2007年、マツダのロードスターによるワンメイクの「パーティーレース」に参戦。女性として初のクラス優勝を果たした。

運転することの本質。

これから自動車はEVになっていくと思いますが、ドライバーに求められるテクニックっていうのは残ると思うんです。エコドライブにしても、本当にエコに走らせるにはドライバーのアクセルの踏み方とか、気持ちの余裕とか、そういうテクニックって必要なんですよ。だから、動力がどうなっても、運転する本質は残っていくと思います。
 そんな中でもスポーツカーはやっぱり特別。私にとってスポーツカーは夢とか憧れの象徴です。例えば、機体が空を舞う飛行機のように、深い海に浮かんで進むことができる船のように、スポーツカーも自分の体一つでは体感することができない領域を楽しめるからこそ、ロマンを噛みしめられるんですよ。しかもスポーツカーは自分で運転することができるんです。クルマを単なる道具として見るんではなく、自主的に能動的に何かを掴むっていう姿勢は、やっぱりスポーツカーや走りの楽しいクルマじゃないと得られないもの、そんな風に思っています。

テレビ神奈川「岡崎五朗のクルマでいこう!」のスタジオ収録風景。「実はしゃべるのが苦手なので、テレビが決まってから、アナウンススクールに通いました(笑)」。

小柄な女性が運転しやすいか、スカートでの乗り降りは?と女性ならではの視点と、レースからの視点で幅広くクルマを評価する。

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