趣味の対象としてのクルマ、その興味は無限大に広がる。 その2
VOL.22_1
藤原 彦雄
1972年生まれ 静岡県出身
1995年ネコ・パブリッシング入社。総務所属後'98年にカー・マガジン編集部に異動。副編集長を経て現在編集長代理としてカー・マガジンを牽引する。
http://www.car-mag.jp/
カーマガジン誌の読者層は30~50歳をメインと想定しているが、
編集部に寄せられる読者アンケートを見ると下は10代から上は70代まで
幅広い年齢の読者から様々なご意見が寄せられている。
クルマや免許がなくても「興味深くクルマの話を楽しむ」というカーマガジンのスタンスが、
年齢に関係ない支持を受けていることが伺われる。
2回目の今回は、雑誌編集の仕事について、そしてクルマに対する想いについて、語っていただく。
実車がなくても特集は組める。
ときどき「毎月発行でネタに困ることはないんですか?」と聞かれることがあります。確かに今回ポルシェの特集をやったら当分ポルシェの特集は組めないとか、思いがちなんですけど、実はそうじゃないんです。例えば、ポルシェを好きな人は、365日ポルシェが好きで365日楽しめる何かがあるはず。だから極端なことを言えば毎号ポルシェを特集してもいいわけなんです。そう考えるとネタなんて尽きないな、と気づきましたね。
確かに苦労の耐えない仕事ですが(笑)、この世界に居ると、自然に興味が湧いてくることがあって、何気ない雑談やちょっとした思いつきから特集ができるということがよくあります。
たとえば、361号の生沢さんの特集は、“生沢さんがポルシェを買った”というだけのことで始まって(笑)、巻頭から40ページぐらいまで、インプレッションはおろか、生沢さんのポルシェが走っている写真すらないんです。走っている写真が無くても特集になってしまうんですよ、クルマ雑誌なのに(笑)。
さらに実車がないのに記事になったのが310号の『ミステリアス・イオタ』という特集。一台だけ作られたランボルギーニ・イオタには『さる富豪が愛人を乗せて運転中、事故に遭って全損してしまった』という都市伝説みたいな話がまことしやかに伝わっていたんです。でも、「これ、誰か調べたのかな」と思ったんですね。そこで早速イタリアのジャーナリストに「イオタは最後どうなったか知っていますか」とメールしたら「イタリアではそんな話、誰も興味ないし知らない」という返事。だったら調べてみよう、ということでイタリア在住のコーディネイターと2人で調べてもらったところ、世界中で広まっていたイオタの都市伝説めいた話は全部ウソだということが判明したんです。驚いたことに、イオタの噂話は30年間、誰も検証してこなかったということが分かりました。それで、昔の写真ばかりを載せた特集を組み、これが、世界的なスクープになったということがあります。
すべてクルマの話。
クルマは乗る物ですが、カーマガジンの根本には「乗らなくても楽しめるもの」という考えがありますから、クルマを作った人の話も、クルマのプラモデルも、クルマを描いた絵も全てクルマの話なんです。そうするとクルマを持っていなくても、免許を持っていなくても、楽しめる世界があるんです。クルマがあってはじめて成立するクルマ雑誌ですが「クルマがなくても特集が組める」というのがカーマガジンらしさかもしれませんし、そんなクルマに関する様々な欲求を満たす答が散りばめられている本、それがカーマガジンだと思います。
大切にしているのは、興味を持ったら何とか実現できないか考えてみること。イオタ特集のように、自分が外国へ行けない場合は現地に居る人に調べてもらうとか、色々と考えれば何でもできるんです。その興味をいかにして記事として実現するか。それが自分の本づくりでしょうか。
本棚に残せる本に。
僕の仕事は編集なんですが、ネコ・パブリッシングが主催するクルマのイベントも重要な仕事となっています。毎年秋に行われ今年12回目となった「ヒストリック・オートモービル・フェスティバル・イン・ジャパン」では、日本人唯一のポルシェワークスドライバーだった生沢徹さんを招き、第5回日本グランプリで生沢さんが乗ったポルシェ910でデモ走行していただくイベントを仕込みました。これはロンドンの生沢さんを取材したことから、その延長線上で実現されたもので、その意味でイベントは「動くカーマガジンの世界」だと考えています。
僕は本を作っている間、その号で担当するクルマが欲しく欲しくてたまらなくなるんですよ。それくらいに気持ちが入ってしまうんですね。でも、そのままだと次の号で担当するクルマも欲しくなってキリがないので(笑)、その号を作っている間だけ本気で“欲しい!”という状態が続いて、次の号に着手したらキレイに忘れるというのが理想なんです。でも忘れられないんですよ(笑)。
今後カーマガジンを大きく変える気はありませんし、読者としてカーマガジンを読んできた延長線上で、基本的に僕が読みたいカーマガジンを作り、それが支持されれば幸せですね。そして「あのクルマが欲しいな」と思ったときに「たしか、あれに載ってたな」と過去の掲載号を本棚から出してもらえるような、皆さんの本棚にいつまでも残していただける、そんな本でありたいと思います。