「速く走ること」と「エコドライブ」。それは一つにつながる。 その2

VOL.21_1

石井 昌道 

1967年生 東京都出身
富士フレッシュマン・レースにも参戦経験をもつ、元Tipo誌の副編集長にして現在フリーランス・ジャーナリスト。丁寧なクルマ分析には定評がある。クルマ雑誌のみならず一般誌にもそのフィールドを広げ活躍中。かつてはレア車を乗り継いでいたが、今はハイブリッドにゾッコン。現在、省エネルギーセンターのエコドライブ・インストラクターを務める。

世紀が変わった01年頃から石井氏が感じはじめたのが
「これはマズイな」というウスラ寒い思いだったという。
環境問題、エネルギー問題が非常に厳しい世の中になり、
クルマの楽しい世界が、悪者になりそうな予感。
「レースをやってきたから、余計に敏感になってたんだと思います。
加害者意識があったのかもしれません」。
どうすればこの楽しい世界を続けていけるのか、守っていけるのか。
そして、これからクルマの世界でどうやって生きていくか。
そんな問題意識を持ったまま
04年にモータージャーナリストとして独立した。
今回も石井氏にお話をうかがう。

ピンチがチャンスに。

クルマのこれからには不安を持ったままでしたが、フリーになってすぐに資源エネルギー庁の外廓団体で『省エネルギーセンター』という所の仕事を始めました。国の政策の中でエコドライブを推進していく仕事です。ここで燃費の研究やテスト、エコドライブのインストラクターにたずさわっていくうちにエネルギー問題への理解が深まってきて、逆に“モータージャーナリストにとって面白い時代になっているのかも知れない”と思うようになったんです。
 世の中は環境やエネルギー問題でピンチなんですけど、だからこそ世界中の自動車メーカーが生き残りをかけて、内燃機関とEV(エレクトリックビークル=電気自動車)を両極にハイブリッド車、燃料電池車からクリーンディーゼル、さらに低燃費のガソリン車など色々なアイデアの新しいクルマを開発してくる。モータージャーナリストはそれに一早く乗ったり見たりできるわけですから、今までの中で一番凄い時代の節目に立ち会っているんじゃないかと感じました。昔クルマが世の中に普及してきた時と同じくらい大きな流れが、今起こっているんです。
 最終的には電気自動車だと思いますが、その世界はもう少し先になるでしょう。だから、どのエネルギーで走るクルマがいいかというのは、現在は国や地域の事情によっても違いますし、クルマの生産時点から廃棄まで含めた「生涯排出CO2」という観点で見ると、生産時に新たなCO2排出をともなう低燃費の新車に変えるより、すでに使っている車をもう少し使い続ける方がエコだという考え方もあるわけです。大切なのは、どこか一つに片寄らないで、全体のバランスを見ながら進めることで、ジャーナリストとしてそんな視点で見ていきますし、僕の感じていた不安の解決策も見えつつあるように感じています。

「エコドライブにはいくつかのテクニックがありますが、内燃機関のクルマは時速40キロから80キロの間が一番燃費がいいことを覚えておくといいでしょう。それ以下でもそれ以上でも燃費は悪化します。だから、できるだけその範囲にいられるような道路や状況を選択することですね。渋滞に合わないようにするとか、高速道路では速度を出しすぎないとか。また、スピードはなるべく一定に近いほうがいい。その鉄則を頭に入れて考えながら運転すると、効率がいいはずですよ」。

初めてEVに乗ったのはサーキット。「EVは静かなので、タイヤがたわみ始めるほんの些細な音も聞こえるんです。だからタイヤの状態に凄く敏感になって、運転が楽しくなるんですよ」。ここ数年EVのイベントにも参加。写真は「中学生EV教室 電気フォーミュラーカーを作ろう!(財団法人せたがや文化財団生活工房主催、日本EVクラブ企画・制作)」で走行体験のドライバーを務める石井氏。

高まる運転への関心。

今インストラクターをやってると、主婦の方が一生懸命「どうやったら燃料代が減らせるか」っていうので「もっと繊細にアクセルを動かして」とか指導するんですけど、こういう時代にならなかったら、その方は一生そんな運転の仕方なんて考えなかったと思うんですよ(笑)。エコドライブしてみようっていうことになると運転に興味を持つんですね。それはとてもいいことで、上手い運転は燃費にもいいし、安全にも繋がる。やってみると『なんか運転って楽しい』って言ってくれる方が二割くらいいます。
 エコドライブは限られたエネルギーでどれだけ走れるかですから、ガソリン車でもEVでも上手く運転するほど燃費や航続距離が伸びるクルマにしていけば、この時期だからこそ今まで運転に興味がなかった人もクルマ好きになる可能性があるんじゃないかと思いますね。
 今回、“CO2削減洞爺湖キャラバン”では電気自動車スバルR1eを運転させてもらい、これでエコドライブをやってみたら、ガソリン車以上に面白いんです。決定的にガソリン車と違うのは回生ブレーキです。ブレーキをかけるとモーターが発電機に変わって電池に充電される仕組みで、ガソリン車でいえばブレーキをかけるたびにガソリンが増えていくような感じ。回生ブレーキを効率良く使うと航続距離がどんどん伸びるのが快感で、運転するのが楽しくなりました。公称航続距離80キロのR1eが、計算上で135キロ走れるくらいまで伸びましたからね(笑)。

毎年ツインリンクもてぎで開催されるJOY耐に今年もシビックハイブリッドで参加。「ハイブリッドでのレースは可能性も見えつつ、レース用に作られているわけではないのでやっぱり大変(笑)。バッテリーやモーターの温度がパーッと上がって、電気も早くなくなってしまう。その辺をどうやればいいのかっていう感じで今取り組んでいます。」
(写真は#69TNSシビックハイブリッド/08.7.6ツインリンクもてぎ)

レース経験が役立つ。

最近「絶対にこうだな」と思いはじめているのは「スポーツドライビングや楽しいクルマ趣味」と「エネルギーを効率良く使っていくエコ」という相反するように思える二つが実はそうではなく、両方一緒に押し進めないと意味がないということです。 
 僕はサーキットをガンガン走ってきたので、エコとは真逆の世界にいたように思っていましたが、クルマ好きでレースを通じての運転知識があって、エコも考えるから、今エコドライブ推進の役に立てるんだと思うんです。だから、トナリのおばさんに「燃費のいい運転は?」とか聞かれて答えてあげられる。エコも役人任せではなく、クルマ好きが考えて楽しいものにする方がいいんです。
 僕はクルマ好きの人が明るい未来を見れるようにしたいので、それには賢くエネルギーを使っていかなきゃいけない。賢くエネルギーを使うには、いいクルマがないと困る。だからいいクルマを作ってもらえるようにメーカーには働きかける。そして次にどうするかを常に考える。この循環ができると、後ろ指さされずにクルマを楽んでいけるんじゃないかと思います。そうした方向を見据えながらジャーナリストとして活動していかなければ、というのが今の僕の考えですね。

今年の6月20日~26日にかけて東京からサミット直前の洞爺湖までの800kmを2台のEVで走破するイベント「CO2削減EV洞爺湖キャラバン(主催:日本EVクラブ)」に参加、石井氏は東京から福島まで電気自動車スバルR1eをドライブ。「EVで長距離は初めてですが、スバルは運転次第で航続距離が伸びるので、エコドライブで航続距離をのばすことができました、いやー楽しかった(笑)」。石井氏の写真は給油ならぬ急速充電中の図。

写真撮影:三浦康史・高橋進

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