初めてクラッチミートした瞬間の感動。そのワクワクを原点に…。 その2

VOL.20_1

嶋田 智之 

1964年生 埼玉県出身
1985年にネコ・パブリッシングに入社、カーマガジン編集部を経て、創刊スタッフとしてTipoに異動、二代目編集長に就任してそろそろ10年。編集業務の傍らトークショーなどでも活躍。
Tipoホームページ http://www.tipo-mag.com/
ブログ:編集部Tの新本日も場外乱闘 
http://www.hobidas.com/blog/tipo/rantou/

来年創刊20周年を迎える「Tipo(ティーポ)」。
その創刊時からスタッフとして関わり、
その中でティーポらしく「クルマを楽しむ」企画を
次々と打ち出してきたのが現編集長、嶋田智之氏。
「やりたいと思ったらやらないと気が済まないんですよ(笑)」という
行動力と熱い想い、そして独自の企画が誌面に溢れ
“クルマファンのバイブル的月刊誌”となっている。
そんな企画の裏側やそこに込めた想いなどを伺った。

スーパーセブンでレース。

ティーポがスタートして3年目くらいの時、スーパーセブンレースの参戦レポートを連載しました。このキッカケになったのは『真冬にスーパーセブン2万キロ』というティーポらしい企画(笑)。フルオープンのセブンで寒さと戦いながら1チームほぼノンストップで2000キロ、テーマを持って10チームが走ったんですよ。恥ずかしながら、僕はクラッシュしちゃったんです。その時スーパーセブンを貸してくださった紀和商会さんから「車両は貸すからセブンのレースに出て腕を鍛えなさい」と信じられない申し出をいただいたんです。全くの素人でしたが、当時の編集長からも「そういう責任のとり方もありだろ」と応援をもらってレースを始めたのが26歳の頃でした。
 始めてみるとハマリましたね。自分の運転のダメさ加減がどんどん分かってくるんです。アクセルが早い、ブレーキが遅い、ステアリングやスロットル操作が雑(笑)。意識してうまくなろうと努力していくと、車を操ることがすごく楽しくなってきて、交差点の曲がり方ひとつでも勉強になるし、サーキットのラップタイムが0.01秒縮むのが嬉しいんですよ。3年くらいでそれなりに走れるようになった頃に昔の運転を思い返してみると、あんなものは運転ではなかったと思うくらい(笑)。そんな体験を記事にしてました。
 僕は闘争心があまりなくて、クルマをキレイに完全に制御していて走りたいとは思うけれど、あんまりレースには向いてないんですよ。'98年にレースを止めましたが、少しはマトモに走れるようになったこと以外にも、当時のレース界の状況や問題点なども身近に感じることができ、レースを通じて得たものは大きかったですね。

最近はパドルシフトのセミATが増えているが「MTにもオーソドックスなATにもそれぞれいいところがあるし、どれに乗っても楽しいと思える」 という嶋田氏。肝心なのはクルマ自身ではなく、そのクルマをどう楽しめるか、という乗り手の姿勢にあるのかもしれない。(ランボルギーニ・ムルシエラゴのコクピットにて)

Tipoは毎月6日発行。写真は2008年8月号。

5万円カーライフ。

輸入車だって安く楽しもうという“激安輸入車ライフ”もティーポが作った流れでしょうね。キッカケは友人がクルマを買い替える時、彼が乗っていたシトロエンBXを「5万円なら買うよ」と言って手に入れたこと。シトロエンは壊れるクルマの代表みたいに思われていた上に“5万円”ですからね(笑)、ロクなものじゃないという固定観念がありました。でも“そんなことはないだろう”と思ったんです。もちろん、乗りっぱなしでは必ず壊れますが、乗り方次第ではそんなに壊れるものじゃない。それを伝えたかったんです。
 趣味性の高い車の中古車は先達が苦労してきたデータがあるので、どこがどう壊れやすく、永く乗るにはどこを直しておけば良いかがほぼ判ってるんです。ですから、まずBXの悪いところは全て直しました。一度初期化してしまえば、しばらくの間は愉しんで乗れることを自分で実証したかった。このBXには約7年間10万キロ乗りましたが、巷で囁かれるように“出先で壊れて帰れなくなる”ということは一度もありませんでしたね。調子にのって、その後もアルファロメオ164、ミニ1000オートマチックなどの5万円とか6万円の激安輸入車を手に入れちゃったりして……。
 クルマも人と同じで予防医学が大切なんですね。壊れてから直すより、先手を打つメンテナンス。だからその車種に豊富な経験と知識がある主治医のようなショップとお付き合いすることも大切なポイントなんです。そんな風にクルマを永く楽しんでもらいたいし、古い車には苦労した先達が必ずいて経験を話してくれますから、そこから仲間が広がってゆくのもクルマの楽しみですね。

Tipoはマニアックなクルマも扱う雑誌だが、サンデーメカニック的な記事がなく“油っぽさがない”と言われる。「餅は餅屋でメンテナンスは専門のプロに任せる、というのが個人的なポリシーなんです。だから、かな……?」。写真は嶋田氏の所有するロータス・エラン・スプリント。専門の工場で復活の日を待つ。

クルマの楽しさは続く。

僕はジャーナリストではなくエンターティナーのつもりでいますから、クルマの未来もその視点で見ているようなところはあります。化石燃料はやはりいずれはなくなっていきますし、エコはさらに重要になり、メーカーは電気自動車やハイブリッドはもちろん、いろんな原動機を使った地球に優しいクルマの開発に、さらに力を注いでいくでしょう。でも、そうなっても、やっぱりクルマはつまらなくはならないと思うんです。確かに、たとえばサウンドという点でモーターは物足りないかもしれませんが、ガソリンエンジンも100年の歴史を経て「アルファの音っていいね」「ランボルは牛だけあって猛々しいね」という世界が確立されてきたわけです。ですから、100年後には「アルファのモーターはいい音で鳴くね」なんてTipoが書いているかもしれない(笑)。
 重要なのは、クルマの本質が『自分で運転して移動するもの』である限り『クルマは楽しい存在』であり続けるということだと思います。子供の頃に遊園地で乗ったバッテリーカートの楽しさを思い出してみてください。運転することの感動や楽しさはエコな時代のクルマにも必ず繋がっているんです。
 来年の創刊20周年に向けて、Tipoらしいと感じてもらえる企画を計画していますし、それ以外にも新たな企画を暖めていますので、楽しみにしていてください。

Tipo7月号で特集したエコラン特集でのロケ。一番左“お控えなすって”のポーズの嶋田氏と編集部一同。中央はTipo出身のモータージャーナリストにしてエコドライブ・インストラクターの石井昌道氏。

2008年3月、フェラーリ612スカリエッティでインドをグルリと1周するフェラーリ主催のツアーイベント「Magic India Discovery」に参加した嶋田氏。ハンドルを握るのは世界中から招かれた50名のジャーナリストのみ。その中の名誉ある一人として、高速道路逆走も日常茶飯事というほど特殊なインドの交通事情の中、無事その重責を果たした。

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