操ること、コントロールをすること。そこに飽くことのない楽しさがある。 その2

VOL.14_1

砂子 塾長 

1964年生 東京都出身
ライセンス登録名 砂子塾長
85年に富士フレッシュマンでレースデビューし、JSSのDR30、F3にステップアップする。その後、様々なカテゴリーに参戦し、1992年にはN1耐久にスカイラインGT-Rで参戦し、1996年に念願のシリーズチャンピオンを獲得する。また、全日本GT選手権にも参戦するが、1998年の富士スピードウェイでの事故により重症を負ってしまい、サーキットから遠ざかってしまう。しかし、毎日のリハビリに励み脅威の回復力により、その年のスーパー耐久の富士戦で復活する。現在も様々なカテゴリーでレースに参戦し続けている。テストドライバーや開発ドライバーを託される事も多く、各種インストラクターも勤める。また、トークや文章の才能にも恵まれ、雑誌の執筆や取材記事、TVのレポーターでも活躍中。
http://www.sunakojyuku.com/

レーシングドライバーとして「楽しむことですね。
無理をしないで自然体でやってきたのが長続きしてきた自分なりの秘けつだと思います。」
と語る砂子塾長。
操ることの楽しさを伝えるために
「極端な話、砂子塾を小学生にやったっていいと思いますよ、
チャリンコの運転の仕方を。
みんなどうやってチャリンコのッてる?みたいなね(笑)」。
今回はモータースポーツのこれからなどについて
お話しをうかがった。

チューニングは環境に貢献。

僕が最近声を大にして言いたいのは、チューニングっていうと環境悪みたいなイメージを持たれてきましたけど、良く考えると実は環境に貢献してるんじゃないかってことですね。例えば軽量ホイールに換えてバネ下重量を軽減し、マフラーを交換してパワーが上がればそれだけアクセルを踏まないで済むから燃費も向上するわけで、間違いなくエコロジーなんですよ。実際、メーカーでもテスト段階で直噴エンジンにターボとスーパーチャージャー両方を搭載したらパワーが出過ぎて、2リッターの予定のエンジンを1.4リッターにして市販してるんです。それによって、凄く燃費が向上しているらしいんですね。ターボなんかはまさにレースの中で培ってきた技術ですよ。
 モータースポーツが何十年もかけてやってきた燃焼効率の向上や軽量化という技術は、実は燃費の向上や排ガスの減少に生かされているということなんで、肩身の狭い思いをする必要はないんです。実際にあちこちのメディアなんかでもでこれを言ってるんですが、そうやってモータースポーツがやってきた事を社会に認めてもらえるように発言していきたいと思っています。

雑誌の企画で行われた“後輪駆動男塾・砂子塾長”。そのいうネーミングが「いたく気に入って」2001年からレースの登録名を砂子塾長にしたという。メディアでも活躍の場が広く、テレビ埼玉の自動車情報番組CAR Hyper(カー・ハイパー)にも出演。レポーターも勤める。

元気な男の子を。

今はミニサーキットが多くなって、普通の人が走るための環境はすごく整ってます。自分のクルマを持って行けば走れますから、峠なんか行く必要はまったくないですよ。僕らの頃は富士や筑波みたいなところしか走るところが無かったし、当時の車はすぐ壊れちゃうんでサーキットなんか走れたもんじゃないですしね。それから思えば本当にいい環境なんですけどね。
 ただ、昔は若者=スピードっていうイメージだったんですけど、最近は全然ないですね。ミニバンばっかりの世の中で。若者がスピードに憧れるっていうのはある面、健全な男の思考回路だと思いますし、乗り物を操りたいって思うのが男の子だと思うんですよね。“危ないから”って何でも取り上げてしまうような過保護な社会では、強い人間が出来ないですよ。それは精神的な去勢みたいなもので、男の子の眠っている特性を封じ込めちゃう。
 また、今オートマ免許の比率が60%位になっています。ミッションが“操る楽しさ”の大きな要素で、シフトアップ・ダウンで走らせる悦びや快感を知らずしていいんでしょうか?。カーナビの普及で東西南北がわからない人も増えているし。人間のスキルを減らして結果を楽に求める。そういう便利さは、どんどん人間の野生的な部分をなくして人間をダメにしていきますよ。20代はカーナビ使用禁止、男はオートマ免許じゃだめ!みたいな(笑)、それぐらいの法律を作って男を掻き立てないといけない時代だと思いますよ。大袈裟な話になっちゃうけど、国やメーカーがまじめに論議しあって、まともな元気な男の子を作っていかなくちゃいけないんじゃないですかね。それがモータースポーツの将来にも関わってくると思いますよ。

GT選手権は'97年から'05年まで参戦。写真は'01年JGTC(現スーパーGT)GT300クラスに910(ナインテン) RACINGでエントリーした#910 910ロディオドライブアドバンポルシェ。和田久選手をパートナーにシリーズ2位を獲得。

2007年シーズンはスーパー耐久STクラス2に参戦。#20 RSオガワ ADVAN ランサーを小川 日出生選手、阪口 良平選手とともにドライブ。3戦の十勝を終えて現在クラス3位。
(写真は2006シーズンの#20 RSオガワ ADVAN ランサー。STクラス2シリーズ3位)

面白いレースのために。

モータースポーツの世界でもシーケンシャルシフトの登場で、レースの興味の一つだったバトル中のシフトミスがなくなったんですよ。追い詰めて行ったらヘアピンの立ち上がりで一瞬のシフトミス、それをついて抜き去るなんていうことがあったんですが、今はそれがない。本当に面白いレースって何だろうと思うと、やっぱり基本はバトルを楽しめなきゃいけないわけですよ。たとえレースの平均タイムが2秒、3秒遅かろうが面白いバトルならお客さんは興奮しますよ。
 例えばナスカー※はドハデなクラッシュがありますが、あの手のクルマは400万も出せば買えるんで、ガレージに帰れば30台のクルマがある。だから思いきったバトルができるんですね。でも1台4億のGTマシンなんてとても壊せないですよね。それじゃ思いきったバトルなんてできないんです。もし僕が何十億の資金をもってレース主催ができるんだったら、アメリカからナスカーを20台くらい買ってきてレースをやりたいですね。操ることの楽しさや面白さを前面に出したレースには高価なクルマより、多少壊れてもいいと思えるレースカーづくりのシステムが必要だと思います。
 カーボンファイバーや風洞実験に億の資金を注ぎ込むより、もう一度レースの楽しみを見直さないといけない時代に来ているんじゃないかと思います。

※NASCAR(ナスカー)は全米改造自動車競技連盟が統轄するレースシリーズ。いわゆるストックカーで競われ、アメリカでは最大の人気を誇る。
マシンはハイテクが排除され、低コスト、イコールコンディションの徹底されたレギュレーションで競う。2006年にはトヨタの初参戦や、F1ドライバー、J・P・モントーヤの電撃移籍などで注目が集まる。

'03年、スーパー耐久STクラス1を走るCHOROQ RACING TEAM WITH PIRELLIから参戦した#99 CRT-PIRELLIポルシェ。パートナーは壷林貴也選手。

  • facebook
  • twitter