肩の力を抜いて楽しむ。それが趣味を長く続けていくコツ。 その2

VOL.13_1

長尾 循 

1962年生 東京都出身
クルマ関係の雑誌編集の仕事を目指して、グラフィックデザインを学び、雑誌制作会社に入社。その後、出版会社を希望してネコ・パブリッシングに入社。エディトリアルデザイナーとしてクルマ雑誌を中心にデザイン・レイアウトを手掛ける。'97年、モデル・カーズの隔月刊に伴い、2代目編集長に抜擢され、以来10年を迎える。仕事を楽しみながら「長く楽しむクルマ趣味」を実践している。
http://www.modelcars.jp/

模型・ミニチュアを通じてクルマを楽しむ月刊誌モデル・カーズ。
“クルマ好き”“模型好き”という読者層に支えられる同誌にとっても、
これからのクルマ趣味層の動向は気になるところ。
今回は長尾氏に編集者の立場から感じるクルマ趣味や模型などの状況などをうかがった。

君のうちのクルマは?

今年中学3年の子供が小学校の頃ですから4~5年前位かな、友達がウチに遊びにきてたんですよ。たまたま僕も家にいたんで「○○君のウチは今度クルマをボルボに変えたでしょ?」と聞いてみたんです。すると「えっ?」。他の子にも「□□君のウチはクルマは何だっけ。確か、アレだよね」「えーと・・・」という返事なんです。今の子ども達は男の子でも自分の家のクルマのことを知らないし、興味がないんですね。僕達の子供の頃は、例えばブルーバードって言えば男の子ならクラスのほとんどが知っていましたよね。今でもクルマ好きな子もいるんですけど、かなりの割合でクルマに関心のない子が多くなっているようです。
 クルマや模型は子どもたちの通過儀礼のような時代もありましたけれど、今はそれが薄れて、クルマや模型が共通言語では無くなりつつあるという感じがしています。モデル・カーズのスタンスは根っこにクルマ好きというのがあるんで、実車に興味が無くて知らなければ模型やミニチュアをみても興味を引かないと思うんですよ。こういう趣味がなくなることはないと思いますが、ちょっと気になる傾向ですね。
 それでも、少し前の読者アンケートでは、モデル・カーズ読者の年齢層は約7割が20代~40代で、残り3割が10代と50代以上となっていて、思ったよりは幅広い年齢層に平均的に分布していました。雑誌によってはアンケートの度に読者年齢が上がっていく、なんてきいたことがあります。読者が一定の世代しかいなくて、その層の年齢が上がっていくだけで後がない(笑)。そう考えるとアンケートで見る限りではクルマも模型もまだまだ大丈夫かなと思いました。

モデル・カーズはクルマ好き・模型好きの編集部6名で毎月発行している。作例の制作には時間がかかるので「常に3ケ月先までネタを仕込んでいます。それでも、予定していたネタが締切りに間に合わなくて、代わりのネタづくりに慌てることもありますよ(笑)」。(長尾氏 後列中央)

60年代~70年代のクルマ。

モデル・カーズで取り上げるとウケがいいのは、初代セリカとかロータリークーペとか、60年代から70年代のクルマですね。当時こういったクルマに乗ったり憧れたりした年代の方だけでなく、旧車ブームもあって若い人にもこの年代のクルマがうけるんでしょうね。ここ数年はミニカーでもプラモデルでも新製品としてその年代のクルマのリリースが多いんですよ。現行車種には、憧れ感が少ないですからね。模型そのものにしても、昔は実車に乗っているからその関係のミニカーや模型も集めてますというところでしたが、今は旧車は手に入らないし入っても維持できないから、その代わりに好きな旧車を模型で、というように時代が変わってきているような感じがします。
 そう思うと、初代カローラやサニーが出るか出ないかの時代、これから日本のモータリゼーションが始まるという時代は、その時の“現行車”と“憧れ”がリンクしていた幸せな時代だったのかな、と思います。今は“現行車”と“憧れ”がリンクしませんから、いきおい模型の世界でも現行市販車は少なく、現行車はモータースポーツのジャンルのものとかになってきますね。模型の世界は実車やクルマ趣味の動向をストレートに反映していますから。

掲載する作例はプロのモデラーによるもの。「作例は雑誌に掲載するのでプロがキッチリ手を入れて仕上げますが、ご自分で作る場合は、肩の力を抜いて好きな様に楽しむのがいいなと思いますね」。
(写真:2007年3月号 掲載作例1/20セリカ)

紙媒体とweb。

クルマとは少し話しがそれますが、ネコ・パブリッシングでは趣味のポータルサイトを目指して、「ホビダス」というサイトを立ち上げています。これは、雑誌の提案としてこういうものがやれるんじゃないか、出版社として持っているコンテンツをwebに活かしていこう、という取り組みです。今後、紙媒体とwebは出版の両輪になっていくでしょうね。web制作は別セクションで担当していますが、編集部から「こんなことをやりたい」というオーダーを出しています。モデル・カーズのコーナーは http://www.modelcars.jp/ もしくは「モデル・カーズ」で検索していただければご覧になれます。この中では、ミニカーやプラモデルの通販もやっていまして、思いのほか売れるんですよ。地方だと手に入りにくいモノもありますから、ミニカーくらいの価格なら通販で買ってもいいか、というところでしょうか。雑誌のブランドという点も信頼いただけている点なのかなと思っています。情報も盛り沢山ですので、webも是非一度覗いてみてください。
 モデル・カーズのジャンルは爆発的に拡大するわけではないと思いますが、コツコツと“こういう趣味って楽しいよね”というメッセージを発信し続けることで、クルマ好き、模型好きが増えてくれれば嬉しいですね。毎月26日の発行ですので、パラパラッとでも見ていただければ幸いです。

初めてドイツのトイフェアに取材に行った時、印象に残ったのがジオラマ(情景)の多さだったという。「ヨーロッパでは鉄道模型の人気も高く、その流れかもしれませんが、模型の楽しみ方として個人的にもジオラマは好きなんです」。
(写真:2007ニュールンベルグ・トイフェアでの1/24ジオラマ)

「実はミニカーコレクションも、模型制作もそれぞれ一つの世界なんです。だから“ミニカー専門誌にしてくれ”“模型制作の本にして”とか要望もいただくんですよ。でもモデル・カーズ誌は“クルマ好き”から派生して幅広く、バランスよく取り上げるのがコンセプトですから」。深く掘り下げるニーズにはムック形式の別冊で対応。トラック、バス、建設機械などのジャンルにもファンが多い。

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