レースとビジネスのリンク

VOL.191

吉田 寿博 YOSHIDA Toshihiro

1964年9月9日生まれ
86~87年に全日本ジムカーナ東北地区チャンピオン。その後、プローバの社員ドライバーとして活躍して、スーパー耐久シリーズでは96年、02年、05年、13年にクラスチャンピオンを獲得した。05年から参戦するニュル24時間レースでは11~12年にWRX STIでクラス優勝を飾っている。

今年のスーパー耐久シリーズのクラス2で
59号車のインプレッサを駆る吉田寿博
プローバ取締役副社長という肩書きを持ちつつ
50歳になっても現役レーサーにこだわり
サーキットを走り続ける理由を探ってみた

レースとの出会い

車で走るのが好きで、暇さえあれば峠やどこかに出かけていましたね。雪道もよく走りに行きました。どんな車でもいいから、走らせることが好きだったんです。そうやって車を走らせる中で、結果を出せたのがモータースポーツ。そのレースの世界に足を踏み入れたら、楽しくて仕方なかったし、すごくやり甲斐もありました。お金もかかることなので、やれる範囲でやっていましたけど、最初はジムカーナから始めて、気づいたらサーキットにデビューしてましたね。モータースポーツをやり始めた20歳前後のころは、働いた給料のほとんどをつぎ込んで、ある意味で借金しながらガソリン代を払うような生活でした(笑)。
 当時は自動車整備、板金、車検とか、そういう仕事をやりながら自分のレース車も作って、ほとんど自分でメンテナンスをしていました。車に乗っていることがただ楽しいなと感じ、なおかつ自分の周りの友達たちとワイワイガヤガヤとレースを準備しながらやっていた時期。3日間ぜんぜん寝ないでレース車の整備をしたり走りに行ったり、若いからこそ無理もできたし、そのぶん充実した時間を過ごしていて、今のようになる日をまったく思い描いてはいませんでした。

アフターパーツの販売に直結するスーパー耐久シリーズでも輝かしい結果を残してきた。「エンケイとレースでタッグを組むのは98年からですね」。

会社とレース

でも、いつからか自分の立ち位置ってどこなんだろうみたいなことを考え始めたんですよ。おそらくプローバに来た89~90年からですかね。プローバという会社がスバルのアフターパーツを展開していて、パーツを作りながら営業もして、なおかつ車に接する仕事に魅力を感じたんです。そこで、こういったメーカーの先にはちゃんとお客さんがいるんだな、良いものを作れば、良いものをお客さんに届けられるんだなっていうことを学びました。そして、ビジネスをする上で最も大事なこと、お金を出してくれる人を絶対に裏切っちゃダメだなっていうのも。100円のものでも100万円のものでも同じように思いを込めて作り、同じようにお客さんに接していかないとダメだなっていうことを勉強させてもらったんです。
 今はプローバの代表取締役副社長なんですが、プローバの宣伝活動も含めてレースに参戦をしています。GC8のインプレッサからやり始めて、GDとか車が変わるたびに進化しながらも96年、02年、05年にはスーパー耐久レースでチャンピオンを獲りました。02年が丸目のGDのインプレッサで、05年は涙目。昨年のGVのインプレッサでもチャンピオンを獲れて、なおかつニュルブルクリンクでの24時間レースにはこれまでに8回出場してきました。
 レース参戦する中でずっとレースとビジネスをリンクさせたいと思ってきたけど、別なものなんだなっていう思いもあります。ある意味、リンクさせている部分はベースの車をスバル車で使っていること。そこだけです。じゃあなぜメーカーとしてレースに参戦するのかって思われますが、レースでのチームワークだったり、ひとりじゃなし得ないものを皆で獲りに行くっていう部分は会社とまったく同じだと感じるからです。会社としてレベルアップしていく上でレースに参戦することは、本当に意義のあることなんです。

ホイールの役割

エンケイとのお付き合いは、スーパー耐久の前身であるN1耐久のころからですかね。ずっとパートナーとして一緒にやってもらっていて、アフターパーツのほうでも何度かエンケイホイールをプローバモデルとして使わせてもらって、オリジナルホイールも作ってもらったり、今年も「all eight」をエンケイと一緒に作らせてもらってオートサロンで発表しました。
 ホイールメーカーがたくさんある中で、なぜエンケイと組むのか? エンケイって職人的なメーカーだと僕は思います。工場見学にも行きましたが、こだわりがすごいんです。だからこそ、メーカーのOEMもできるし、海外展開にもつながっているんだと思います。ひとつのものを作る上での自分たちの立ち位置をしっかりと理解して、そこに注力しているところは見習うべきものですね。
 ホイールって、ひとつのパーツと考えれば非常に高価なもの。お客さんは見た目だったり値段だったりで判断するかもしれないけど、モノの素材だったり剛性だったり、そういうところにもエンケイは気を遣っています。工場見学した時、自分の命を守るパーツはエンケイのような信頼できるメーカーのものを使わないとダメだなって心底思いました。モータースポーツってスピード域も公道より高いし、危険なスポーツでもあるので、間違ったパーツ選びをすると車も全損するし、人間もケガをしてしまいます。そういう意味で足元の部分ってすごく大事になります。レースでは車のサスペンションを細かくチューニングしただけでタイムが上がっているのかなって皆は思われがちですが、それよりもホイールが果たす役割のほうがうんと大事。ホイールの剛性が足りなくて横Gを受け止められず、そのまま車のヨレにつながったり、フィーリングがかっちりこないなっていう時もあるんですよ。あとはタイヤとのマッチングもそうなんですけど、リムずれとかが大きいホイールもあったりとか。あまりクローズアップされないパーツではありますが、非常に大事なパーツなんです。過去に嫌な思いをしているからこそ、安心してアクセルを全開にできるホイール選びをしようって思った結果、エンケイと仕事やレースをすることが多くなりました。そういう意味では、そこでもレースからビジネスへのリンクはあったわけですね。

プローバの顔としてS耐に参戦してきて
これまで4度のクラスタイトルを奪取。
なぜレース参戦を続けるのか?
パーツ開発の中でのレースの位置づけと、
現役で59号車のインプレッサを駆る吉田寿博が
レースを続ける理由を聞いた。

リタイアできない

レース参戦すればプローバのビジネスとリンクするのか? すべてが必ずしも直結するわけではありませんが、やはりレースの世界ってものすごく過酷なんです。車も、タイヤも、ホイールも、人間であるドライバーも限界状態まで追い込む、それがモータースポーツ。そんな条件って公道を走るなかではあまりないので、すごく良い試験場なんです。レースの環境下で何事も起きなければ、もっと車速の低い一般道では充分な強度だろうと。いろんなパーツを作る中でレース車両に装着してテストして、自分たちで性能だけでなく耐久性もテストしていって認めたものを一般市場にフィードバックする。それは僕らの使命であると思っています。すごく大変な作業ですが、そこで生まれたうちの商品を付けた車に乗ったとき、付ける前より少しでも車に乗る楽しさが増えたり、性能の良さを感じてもらえたとしたら、この上なくやり甲斐のある仕事だと思えてなりません。
 もちろん、レースは結果がすべてという厳しさがあります。競争相手もいるので、自分の思いだけで結果が出るわけでもありません。競争相手の強いところ弱いところを感じながら、自分たちが優位なところも理解したなかで良いパーツを開発していく必要があります。プローバがそうやって突き進んでいって結果が出たらファンも増えるだろうし、それがお客さんが商品を選ぶきっかけになればとも思います。だから、レースをトラブルでリタイアするのが一番ダメなこと。結果も残らないし、信頼性という部分にもヒビが入ることになります。どんな順位であろうと、完走だけはする。そこをクリアした次のステップが「結果を求める」なんだと僕は思っています。おかげさまで、プローバとしては96年、02年、05年、13年にS耐でチャンピオンを獲ることができ、性能と耐久性の面では信頼を得ていると肌で感じています。

自分の車を知る

チューニングパーツを提供する一方で「本当にそのパーツが必要なものかを自分で分かっていないといけませんよ」とよくお客さんには言います。自分のドライビングスタイルはもちろん、パーツを使うシチュエーションは適正なのか? サーキット、ミニサーキットを攻めるためなのか、町乗りや通勤で使うだけなのか。そして、自分自身で「ここが少し物足りない」と感じた上で手にしてほしいと強く願います。
 サーキット、ミニサーキットに行くというのは敷居が高いかもしれませんが、クローズドされた広場での走行会やスクールでもいいと思います。そういうところで、とにかく思いっきり走って自分の車の性能をつかんでほしいんです。一般道でアクセルやブレーキを思いっきり踏めるところやシチュエーションはほぼありません。だから、実際に自分の車の性能を把握している人って本当に少ないものなのです。これだけアクセルを踏めばこれだけパワーやトルク感があって、ブレーキをこれだけ踏めば自分の車はこれぐらいの制動力を発生させるんだなって。その限界をつかんで初めて、自分の車に対する要求、何が足りないのかも見えてきます。もちろん車の性能だけでなく、自分のドライビングスキルが足りない可能性もあります。自分の車の性能が足りないのか、ドライビングスキルが足りないのかが分かってくれば、アフターパーツ選びをするにも間違いがないと思います。
 また、きっちりとした基準を作っておくことも大事です。タイヤひとつの性能にしても、グリップの限界を分かっている人は少ないでしょう。空気圧すら見ていない人も多いです。劣化だってしてくるし、空気圧が違えばフィーリングも違ってきます。月に1~2回は空気圧をチェックして標準にセットしておく。変化を感じとるための基準を自分できちんと管理しておかないといけないのです。そうすれば、パンクや偏摩耗を早く察知できる、つまり安全面にもつながります。
 パーツ選びで迷ったり悩んだりするなら、直接そのメーカーに相談すればいいと思います。プローバはスバル車を35年もやってきているので、そこに関しては他よりも有益なアドバイスをできます。他は分かりませんが、うちはどんどん来て欲しいなって思っています。それだけで賑やかになるじゃないですか。

横浜の都筑区のプローバ。2Fの商談スペースには、これまで開発してきたパーツが展示されている。

ドライバーも続けたい

今後も引き続き、ひとりでも多くのスバルユーザーさんに、普段のカーライフの中でプローバのパーツをなるべく気持ちよく長く使ってもらうための「モノ作り」を目指したいですね。それを生み出すための試験場として、モータースポーツは欠かせません。できれば、自分としてもドライバーを長く続けていければと思っています。年齢的な問題でいつかは結果が出せなくなるかもしれないけれど、出られる限りはトライし続けたい気持ちがあります。チャンピオンマシン、ウィナーマシンのパーツのひとつがプローバ製でありたいですね。まあドライバーを引退してもサーキットには通うだろうし、生きている間はずっと車から離れることはないでしょう(笑)。本当に車は僕にとって人生を共に生きているパートナーなんです。

吉田自身はニュル24時間レースには05年から参戦してきた。11~12年にはWRX STIでクラス優勝も飾っている。

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