ENKEI

  • youtube

HUMAN TALK

HUMAN TALK

ENKEIをキーワードに業界の著名人を、ご紹介します!
ここでしか読めない情報も盛りだくさん。

小林 雅彦 世界に誇れる技術を残したい

HUMAN TALK VOL.197 小林 雅彦 世界に誇れる技術を残したい

PROFILE

小林 雅彦
KOBAYASHI Masahiko

昭和45年6月1日生まれ、静岡県御殿場市出身
自動車整備・鈑金塗装の株式会社カマド2代目。自身の興味ある分野を開拓し続ける中、スズキアリーナ店、ロードサービス、自動車解体、昭和の四駆から軍用車のレストア、修理販売、出版事業にまで事業を拡大。現在は御殿場に「防衛技術博物館」を創るために活動中。
http://www.k-m-d.co.jp

前回掲載の由良拓也さんからご紹介いただいた小林雅彦さん
静岡県御殿場市に「防衛技術博物館」を創ることを目指す
小林さんには、とてもユニークな過去があり
日本が誇る戦車やジープなどをレストアした実績も持つ
現在の本業である自動車屋を20代で継ぎつつ
なぜそんな博物館を創りたいと考えたのかに迫る

小林 雅彦

 実家が自動車屋だったのですが、子供の頃は家を継ぐことは考えていない親不孝者でした(苦笑)。一番人生について悩んだのは小学校の卒業文集に将来の夢を書くとき。実家を継ぐって書かないと親がガッカリするだろうなと思って、何て書いていいか分からなくなってしまったんです。友達は野球選手とか好きなものを書いている。確か自分は船長とか、当たりさわりのないものを書いたのを覚えています。高校生になってリアルに自分の人生を考え始めた頃は、家からどう逃げるかというのにフォーカスしてしまっていましたね。当時はまだ長距離ドライバーの収入が良かったと聞いていたので、大型免許をとって寮生活でもしようか、自衛隊に入隊しようか……考えたこともありました。ただ、父親が継がせたいと言ったことは一度もなかったですね。もし言ってきたら、本当に逃げていたかもしれないです。

小林 雅彦
小林 雅彦
約70年前に走っていた幻の国産車「くろがね四起」の足回りとエンジン。情報や部品、資金を集めながら、その復元計画を現在実行中。「来年の今頃には形になっていると思います」。他にも多くの軍用車をレストア、修理販売してきた。

スイカサイズのピストン

 ミリタリーには興味を持ったのは自然な流れでした。住んでいる近くに駒門駐屯地があって、年に1回は駐屯地祭りという、大学祭のようなイベントが開催されていたんです。学校のクラスの1割が自衛隊のご子息だったりするのが普通だから、そういうイベントに誘われて足を運ぶことも自然でした。自衛隊の方が焼きそばを出してくれたり、戦車が走っていて乗せてもらったり、小学生にとってはとても新鮮でした。で、戦車に乗ったら憧れてしまいますよね。純粋に、すごいなって。戦車を整備しているところを見せてあげるよと言われるまま見に行くと、普通車の1000シーシーのエンジンのピストンなんかとは比べものにならない、20000シーシーの戦車のエンジンに圧倒されました。スイカぐらいの大きさのピストンが12個並んで、それがガタン、ガタンって動く。それを分解しているのを見て影響を受けないわけがないでしょう。宇宙戦艦ヤマトやガンダムの世代ですから、ドストライクだったわけです。
 もちろん実家が自動車屋で、車のエンジンなんかを見慣れていたことも大きいと思います。中学、高校、大学と進んで、大学を中退して最終的には実家を継ぐハメになってしまったんですけど、とにかく機械は好きでした。家がこの敷地内にありますから、壊れたエンジンを直して再始動したときに見せるメカニックの方々のうれしそうな表情とか、達成感とか、そういうのはいつも共有してきましたので。で、最近分かったのが、自分はエンジンマニアだということです。

防衛技術博物館

 自分の世代って地上波でバリバリF1レースが放送されていたのですが、レースに興味はありませんでした。ただV12のエンジン音を聞くとシビレてしまう。そんな人間だったんです。基本的にはジープ、大型トラックのディーゼルエンジンが大好きで、大きなピストンがガタン、ガタン、動いているのを見ると、たまらなくドキドキしてしまう。戦車のエンジンやジェットエンジンに、すごく興味があるんです。
 エンジンって、ひとつとしていらない部品はないわけです。1個がサボると動かなくなります。機能によってここの材質はこれが良いとか、鍛造がいい、削り出しがいいとか、エンジンは多くのノウハウの積み重ね、結晶じゃないですか。そう考えたとき、日本でエンジンをきちんと作れるメーカーってどれほどあるんだろうって、2~3年前に一度数えたことがあるんです。自動車メーカーって増えているようで、廃業や合併して減ることはあってもエンジンを製造できるメーカーって増えていないんですよ。あくまで自分の解釈で数えた結果ですが、48社ぐらいでした。そのうちの12社が日本にあるわけですよね。日本って世界の人口シェアで言うと60分の1ぐらいで、ジャンボジェットに乗った時に「おーい」って言ったら2~3人は返事をしてくれる数字なんです。意外に多いと感じませんか?自分なりの数え方に従うなら、エンジンを作れる自動車メーカーの中で日本メーカーは15~20%。大きな割合ですよね。
 エンジンは集合的な製品なので、日本人に向いているなとも思います。日本人って付き合い残業っていう言葉があるように、皆で何かをやるのが好きなんですよ。誰かがサボると機能しない。だから韓国、中国を批判するわけじゃないですけど、一般論として同じアジアでも韓国や中国の民族性の風土でエンジンを作ると、うまく動くわけがないんですよ。一方で、日本人はマジメで責任感が強い人が多くて、それが良いかどうかは別としてエンジン作りには向いている。日本人の特色なんですよ。その背景には当然ながら戦争もあって、いろんな歴史の流れもあるんですけど、そういう技術を持っていることを再認識しつつ、技術自体をきちんと見てもらう博物館を作りたいなと思って、いま御殿場で活動しているんです。その一環で、5年ぐらい前から由良(拓也)さんのところにも顔を出すようになったんです。
 僕が作りたいのは簡単に言えば戦車博物館です。ただ、そう言うとアレルギーが出てしまう人もいて、いろんな人に説明するときには“防衛技術博物館”と言っています。特殊な分野ですが、「技術の鎖」という観点で言うと、鎖って一番弱いところが切れるわけです。だから切れづらい鎖を作れることはすごいことだし、日本がそれを作れるような国でいつづけてほしいんですよね。そのために何をしたらいいかと考えてたどり着いたのが防衛技術博物館なのです。小中学生たちにその技術を見せて興味を持ってもらいたいんです。作ってみたい、触ってみたい、修理してみたい……そう思ってくれる子がひとりでも増えれば、と。自分は高校2年生の時に鉛筆を転がして文系か理系かを決めた口ですが、そうじゃなく明確にこういうものを作りたいから、こういう勉強をしてこういうメーカーに行くんだというビジョンが描けるような博物館を日本に作りたい、残したいと思ったんです。


自称エンジンマニアの小林雅彦さんは
御殿場市内の「特殊性」を見出して
そこに防衛技術博物館を創ることを目指している
障害も多く、実現するのが難しい中で
良い出会いに恵まれ仲間も増えていき
ようやく光が見えてきた。勝負はこの半年……

小林 雅彦
工場から徒歩1分程度の場所にある「社長の小部屋」。NPO連絡事務所でもあるが、現在建物内にはコレクションが展示されている。

 家を継ぐ前に東京に出ていた時期があったのですが、そこから地元に戻ってきたとき、御殿場があまりにも特殊だというのが分かったんです。ただ御殿場の人たちって自分が住んでいるところが特殊だと思っていない。だからこそ10年前ぐらいですかね、御殿場なら自分が考える防衛技術博物館を作れるんじゃないかなって思い始めたんです。ただ、その時は自分が中心になって何かをやっていくなんて想像もしていませんでした。
 実はこういった博物館を作ろうという話は過去3回ぐらい、御殿場ではあったんです。一番近いのは5~6年前、私たちの活動が始まるタイミング。御殿場市の公園に戦車を並べる話があって、推進派の市議会議員さんや地元の有力者の方々がカマドの社長が詳しいというのを知って「戦車がアスファルトの上を走るとどうなるんですか?」といったことを聞きに来たんです。戦車がアスファルトの上を走ってもまったく問題ないんですが、そういうことも知られていないんです。そのときから市議会議員や地元有力者の方々とお付き合いが始まって、その企画を一緒に進めてきたのですが、いろんな問題があって結局は実現しませんでした。それでも諦めきれず、もう一度、次のステップでやろうかと継続して動いてきました。

小林 雅彦
小林 雅彦
社長の小部屋に展示されているケッテンクラート(ドイツ)も時間をかけてリストアした1台。戦車は九五式軽戦車で、2010年に日本でも放映された米国HBO社のTVドラマ「ザ・パシフィック」の撮影用に制作された大道具のうちの1台。サスペンションも可動して実物を再現していたが、塗装と迷彩パターンが不正確で、小林さんはそこを修正して完成品とした。

夢のきっかけ

 防衛技術博物館を作りたいなと思ったきっかけは、友達のチェコ人の言葉でした。アメリカ軍のジープやドイツのキューベルワーゲンとか、そういうのが好きで輸入してレストアしていく中で、チェコやドイツに部品を仕入れに行っていたんです。それでチェコ人のひとりとすごく仲良くなって、「今度日本に行ったときに日本の博物館を見せてくれ」とて言われたときに「日本にはないよ」と返したら、半分冗談混じりに「何しているんだ、こんなところにドイツの車を見に来ている場合じゃないぞ。早く家に帰って博物館を作れ」と言われたんです。それがすごく印象に残ったんですね。
 冷静に考えると日本では企業が自分たちの製品を残すために博物館を作ってきました。ただ、本当に子供たちや次の世代に何かを残していくってことをしていません。本来なら国がやるべきなのかもしれませんが、そういう動きもないので、草の根運動として私がNPOを立ち上げて地元で動き始めたんです。まずは地元で興味を持ってくれる人に片っ端から挨拶に行きました。共感してくれる人は10~20人にひとり、そんなもの。そのうちのひとりが前号に掲載されていた由良(拓也)さんでした。「おもしろいことやっているよね」って。
 で、そんな活動を5年間続けてくると「カマドの小林はオタクで単に好きでやっている」という認識から「本気なんだな」というのが伝わっていくんですね。そろそろ何とかなりそうな気配が出てきました。具体的に、ここに立てたらいいんじゃないかと場所が決まり、スキームとしてどれぐらいの規模でどういう流れでやっていくんだという話も固まりつつあります。
 御殿場としても、20年ぐらい前から対流型の観光施設や御殿場市内にメリットのある目玉が必要だというテーマを抱えています。2020年の東京オリンピックで海外から人がいっぱい来ても、富士山やアウトレットに足を運ぶ人はたくさんいても、御殿場市内を対流することはないのでは……という声もあります。じゃあ何がいいのか? 消去法でいくと、防衛技術博物館のアイデアが残ってしまうんですよ。だから応援できないっていう人たちも、カマドの社長が言っていたあれか……という具合に認知度が上がってきて、実現できる可能性も高まってきたわけです。最終的に実現するかどうかは、この半年ぐらいが勝負だと思っています。

小林 雅彦

市立博物館を目指す

 2年前、実際にこの活動をしてきて良かったなと思うことがありました。くろがね四起という日本製の世界初の4輪駆動車があって、日本国内には後期型が1台、石川県の日本自動車博物館に残っています。ただ、かなりボロボロだったものをリストアしたもので、価値はあるんですけどオリジナル度を語るレベルではないんですね。で、前期型と言われるものは日本国内にはないと言われている中、京都の自動車整備工場に奇跡的に原形をとどめて残っていたんです。こういう博物館を作りたいと連絡をとって話をしたら、その工場の社長が父と仲が良く、息子だと知ったら話がトントン拍子に進んで、博物館に飾るという前提できれいに直すのであればその前期型を持っていっていいという話になったんです。
 ただ、うちだけの力でレストアできるものじゃないです。もう70年以上も前の車で、40年間放置されていたわけですからね。板金見積もりをレストアショップに出したらボディワークだけで800万円。エンジンやミッションまでやったら1000万円……。どうしようと悩んでいるときに昨年、まだ流行り出す前だったクラウドファンドに懸けてみたんです。「くろがね四起の修復プロジェクト」です。トータルで1200万円ぐらいの募金が集まって、プロジェクトはスタートして、いまもリストア真っ最中です。
 先月には四国の運送会社の社長さんから連絡がありました。個人で乗ろうとアメリカのジープを持ってきてコツコツとレストアしていたそうですが、メカニックがやめてしまって進まなくなり、どうしようか決めかねていたときに奥さんがたまたまテレビ番組に出演していた私を知って、引き取ってもらいなさいと言って、社長さんが連絡をしてくれたんです。先日、四国までジープ1台を引き取りに行ってきました。継続していることで、こうやってだんだんとモノが集まってくるんですね。
 博物館を作る上でのキモは、御殿場市立として作ることです。個人で作ってはダメなんです。私も年をとりますし、いつ熱意がなくなってしまうか分からない。個人でやっていることって結局は趣味の世界なんです。御殿場市立で作れば継続して残していけるし、持ちあぐねた人が寄贈する形でどんどん展示品も集まってくる。地方自治体がやれば防衛省の協力も得られ、使わなくなった戦車、装甲車、ヘリコプターを貸りることもでき、膨大なコレクションが集まってきます。
 自衛隊OBの方々にもご協力をいただいてエンジンを動く状態にして、後世ずっとその状態で残していきたいんです。年に一度はパレードで走らせて、季節ごとにテーマを決めてそのうちの1台を動かすなどイベントも開催していけばリピーターも呼ぶことができ、ビジネスモデルとしても成立すると思うんですね。そんなことをたくらんで、日々動いています。実現して完成した際には、ぜひ足を運んでください。
Copyright (c) ENKEI Corporation All right Reserved.
PAGE TOP