これからのメディアの形

VOL.269 / 270

飯嶋 穣 IIJIMA Minoru

1973年生まれ、東京都出身。スーパーカーブーム末期に幼少期を過ごす。大学時代にいすゞ初代FFジェミニを買い、R32スカイラインGTS-tタイプMに乗り替えてからは、ずっと日産車を乗り継ぐ。大学卒業後はベストカーを志望して講談社ビーシーの前身である三推社の門をたたき、入社当初はアウトドア雑誌「FENEK」編集部に配属。2007年にベストカー編集部に転属、今年2月に編集長に就任した。

月2回、毎号20万部を刊行している自動車専門誌日本一の発行部数を誇るベストカー
今年2月、編集長に就任した飯嶋穣さんにその「車愛」を聞かせてもらいつつメディア業界においては今後の課題である雑誌とウェブの連携をテーマに語ってもらった

これからのメディアの形---[その1]

(エンケイニュース2021年5月号に掲載)

「カラーリング含めてすべてが最高」という童夢-零。ミニカーは同じものを6台も所有していた。

 私の幼稚園時代がスーパーカーブーム末期の頃で、その影響でスーパーカーが大好きな子でした。ミニカーは200台くらい持っていましたし、他にも王冠や消しゴムを集めていて、童夢-零はとくにお気に入りでまったく同じミニカーを6台買い、これが一番目、これが二番目、これは外用と決めて遊んでいたのを覚えています。
 うちは父が免許を持っていなかったので、その後は車を強く意識することなく過ごしていましたが、高校の時に先輩が卒業したら車を買うという話になり、だんだん車への興味が復活してきたんです。その先輩がいすゞのジェミニ、FFになったばかりのモデルを欲しいという話をしていたのを、いざ自分が大学に入って免許を取り車を買うことになった時まで鮮明に覚えていました。調べてみると、小さくてヨーロッパ風な見た目で、とてもかっこいい車じゃないか、と。それでジェミニを最初に買ったんです。
 その後、母親が病気になって半年ほど入院したんですが、その間にせっせと世話をしたおかげで(笑)、おりた保険金をベースにR32スカイラインタイプMに乗り換えることに成功しました。その後にS14シルビアを買い、R34スカイラインの4ドアセダンターボのマニュアルを買って、今のR34GT-Rまで、ずっと日産で通していますね。最初のR32スカイラインは結局7年くらい乗っていました。スカイラインは飽きないので、長く乗れるんですよ。

飯嶋さんの愛車、99年式R34型スカイラインGT-R。現在バッテリーあがり中(笑)。

スカイライン愛を 語る

 シルビアは1年くらいで飽きてしまいました。スカイラインは3台買っていますが、一度買うと「これでいいや」と思えて長く所有してしまうんです。今乗っているGT-Rについては街中で乗っているだけでも気持ちいいですね。ただ、現代の車が面白くないというわけではないんです。欲しい車があるにはありますが、今所有している車を売って買い替えるかというと、そこまでではない。今の車が壊れたらあれを買おうという感じです。
 スカイラインのどこがいいかを言葉で表現するのは難しいのですが、やはりエンジンですかね。回転のスムーズさ、レスポンス。マニュアル車でも、エンジンの回転の落ちがゆったりしていると面白くないと思ってしまいます。足回りの良し悪しは正直分からないです(笑)。シャシーの硬さとかは最近分かってきましたが、気持ちいいと感じるポイントはエンジンなんです。街乗りだけの話ですが、スカイラインは2000回転くらいで走っているとエンジンの雑音が聞こえますが、2500回転を超えると音がどんどん澄んでいくんです。その回転感覚が気持ちいいんです。街中でもそれを味わえるのが魅力かなと思っています。
 過去に仕事で乗ってきた中では、アルピーヌも面白い車でしたね。価格帯の低いところではスイフトスポーツも。今のモデルもいいし、その前の自然吸気のモデルも良かったですね。一度、モンスタースポーツのコンプリートカーを試乗したことがありますが、その時はこんなに気持ちよく回るエンジンなのかと驚きました。あとシビックタイプRは市販状態でエンジンの回転が鋭く、乗っていて楽しいと感じましたね。
 一方で、これからの車であるEV車にも期待しています。今は「EV=静か」という方向に話がいきがちですが、ラジコンのレースを見ているとモーター音の高まりが、興奮する要素になり得ると感じます。騒音規制などもありますが、「EV=静か」という方向だけではなく、そうじゃないEVもあるよという道も開拓されれば、意外に面白い分野だと思っています。

就職失敗からベストカーへ

 大学卒業後は就職活動を失敗してしまい(苦笑)、ベストカーにバイトとしてもぐり込み、4月からはフェネックというアウトドア雑誌の編集部で、契約社員として仕事をすることになりました。アウトドア雑誌なので釣りをしたり、クワガタを取ったりする取材を3年ほど続けた後に社員になり、結局フェネックには10年くらい在籍しました。その後、2007年にベストカーに異動になり、時々ベストカープラスなどを手伝うことはありましたが、基本はずっとベストカー編集部に所属する形で過ごしてきて、今年2月に編集長に就任させていただきました。

アウトドア雑誌FENEK出身だが、料理はできず、キャンプをする際はもっぱら火起こし担当。

今年2⽉24⽇に、自動車専門誌日本一の発行部数を誇るベストカー編集⻑に就任した飯嶋穣さん
デジタルメディアとの連動、連携が要求される現在、この紙媒体をどう舵取りしていくのかを聞かせてもらった

これからのメディアの形---[その2]

(エンケイニュース2021年6月号に掲載)

 編集長が替わったのだから、誌面の内容を大きく変えたらどうかという話もある一方で、ベストカーは伝統ある雑誌なので、今いる読者が離れてしまうようなことはしたくありません。個人的には後者を軸にして、これまでのようなベストカーらしい企画の精度を高めていく作業であったり、雑に作ってしまうページがないようにすること、そして新しい企画を増やしていければと考えています。あとは働き方改革ですね。うちは編集部員が自ら動いて、ページを作ってきた時代が長く続き、それが根づいています。ですが、これからは思いきって10ページ単位で外注に出すことで編集部員が新しいことを発見したり、一緒に仕事がしたいなと思える人を見つけてくるといった時間に使っていくことを推奨していきたいですね。

車雑誌にサバ缶やメダカも

 これまでベストカーの誌面とウェブは、同じ会社でも違うメディアという位置づけでしたが、ウェブの編集長とは仲も良く、今後はお互いに風通しよく色々と連動していければと話をしています。というのも、ベストカーには雑誌もあり、ウェブもあり、ベストカーチャンネルという動画もあるので、今後の会社の方針として紙だからどう、ウェブだからどうだといった考え方をなくして、ベストカーをひとつのブランドと考え、様々な展開をしていくことを進めていく予定です。3者それぞれの性質は違いますが、そこをうまくまとめていくことが、今後のメディアのスタンダードになっていくはずです。
 最近よく聞く、紙の時代の終焉。ウェブがこれだけ広がった今、雑誌は本当に必要なのかという議論ですね。うちの場合で言うと、ウェブ記事には各々のテーマがあり、それにまつわる原稿が続いています。見出しと関係のないことを書いたら、読者が驚いてしまう、つまり〝寄り道〟ができません。一方の紙媒体は、ひとつの大きなタイトルを掲げて話を展開していきますが、いくらでも寄り道ができます。
 例えば、R35GT-Rの記事でエアインテークの話が出てきたとします。その形状が日本刀の形を模しているというエピソードから、まったく関係ない日本刀の話を急に始めてしまうカコミが出てきたり。それが許されるのが紙媒体の良さだと思います。記事1本ではなく、1冊として読んだ時に「面白かったね」と読者に言ってもらえるのが紙の魅力かな、と。車と関係ないサバ缶のページを作ったり、急にメダカを紹介したり、とにかく面白いと思ったら食いついていくという腰の軽さをキープしていければいいですね。
 情報を早く出せるという点でウェブには勝てませんが、紙には時間があります。違う切り口で、この人に依頼したらどんな原稿が上がってくるのだろうと、編集者が悩んで迷える面白さも紙媒体ならではだと思っています。
 ベストカーは新車を扱う雑誌なので、新車情報を載せていくことは変わらず継続していきますが、それに加えて時間が経っても面白いと思ってもらえるような〝時間的耐久性〟がある企画を充実させていき、ウェブと差別化できればいいなと思っています。

おじさんが激しく楽しむ

 編集部員時代は2週間に1回、締め切りが迫ってくるのもあり、作ることに追われていてなかなか考えられませんでしたが、編集長になった今は紙の将来を考えることも増えました。
 数年前、総務省が発表した情報通信白書の中に、「情報を何で取得しますか?」という調査をした結果が年代別に出ていました。紙媒体で情報を取得する30代は少なかったのですが、意外なことに20代は紙で情報を取得すると答えた人が多かったのです。それを見て、紙の将来はそれほど暗くないのかなと思いましたし、我々作り手側がうまくやっていけば、もう少し頑張れるんじゃないかなと考えました。
 一方、その結果を見て、雑誌の作り方を変えるべきかについても考えさせられました。車雑誌で扱うのは、もちろん車。車離れと言われる若い世代に内容をシフトしたらどうなるのか?個人的な結論としては、おじさんたちが激しく楽しんでいた方が、結果的に若い世代に好影響を与えるのではとの考えに至りました。おじさんたちが盛り上がっている車の世界を見て、そんなに面白いのかと若い世代が自分たちで情報を集めていくような広がりです。その方が自然とこっち側に入って来てもらえるような気がするんです。
 サーキットの支配人との話の中で、車好きに若い層が増えているとも聞きました。20代が全員、車離れしているわけではないんだと思います。今はカーシェアが普及していて、そこで車の便利さに気づいて車を買う人もいるでしょう。きっかけはカーシェアでも、そこから車の魅力を発掘してスポーツモデルを買うような人もいるでしょうから、世の中で言われているほど若者の車離れを心配する必要はないのかもしれません。
 雑誌とウェブ、動画という情報発信を連携させて、ベストカーとしてはあらゆる世代に車の魅力を今後も発信し続けていきます。

  • facebook
  • twitter