ENKEI

  • youtube

HUMAN TALK

HUMAN TALK

ENKEIをキーワードに業界の著名人を、ご紹介します!
ここでしか読めない情報も盛りだくさん。

伊藤 大輔 氏 レーサーと市販車

HUMAN TALK VOL.179 伊藤 大輔 氏 レーサーと市販車

PROFILE

伊藤 大輔
ITO Daisuke

1975年11月5日生まれ 東京都出身
95年にSRS-Fの第一期生で入校、96年にスキルスピードからフォーミュラトヨタにデビュー。97年にF3に上がり、98~99年はマカオグランプリにも参戦して99年に3位表彰台を獲得。00年から全日本GT選手権(現スーパーGT)に参戦開始。チームを移籍する中でホンダ系チームのエースへと成長し、07年にARTA NSXを駆りチャンピオンに輝いた。08年はホンダからトヨタのチームルマンへ電撃移籍。今季よりTEAM TOM'SからGT500へ参戦している。
http://www.daisuke-ito.com/

常に自らのドライビング、車と向き合っている
レーシングドライバーという職業の方々は
普段乗りの市販車とはどう付き合っているのか?
今年も国内最高峰のGT500を戦う伊藤大輔選手に
サーキットの外で走らせてきた車のこと
そしてドライビングについて語ってもらった。

伊藤 大輔
2010年スーパーGT富士で走行中のENEOS
SUSTINA SC430。

F1に乗りたかった

 小さい頃から車は好きだったけど、あのスポーツカーに乗りたいとか定まった方向の願望はなかったですね。普通に男の子として好きだったという感じ。ただ、ミニカーはたくさん持ってましたよ。中学生の時にレースと出会って、普通車をどうこうって考える前に、まずレーシングカーに乗りたいっていう気持ちが先に出てきたんです。高校に入ると18歳から免許が取れるでしょ、そうすると友達は中古車雑誌を見始めて、あの車に乗りたいという話をし始めたんですけど、自分はカートに乗りたい気持ちしかなかった。レースというものに真っ直ぐに入っていってF1に憧れたから、一番乗りたかったのはF1マシンだし、当時の僕にとって手が届くレーシングカーというのがカートだったんです。意外かもしれませんが、まったくそこ以外に興味がなかったんです。
 カートをやる上でまず必要だったのが、運搬用のバン。高校生の時は父親のデリカの後部座席をカートが積めるようにして運んでもらっていました。18歳で免許を取って、自分で最初に買ったのがマツダのボンゴ、商用車で荷室がフラットになっているやつです。カートを運びながら、しばらくそれに乗っていましたね。
 F3時代は知り合いから譲り受けたシビックフェリオにずっと乗っていました。あの時は初めてオーディオに目覚めました。レースにお金を使わなければいけないことは分かっていたけど、イコライザー表示の付いたやつを買って、前後4つのスピーカーを換えて、サブウーハーをトランクに載せて……車体をいじらず、そっちをいじり始めたんです(笑)。音楽がすごく好きってわけではなかったけど、それで聞いたら「こんなに違うの!?」ってびっくりしました。3年間F3を走りましたが、自分の車で移動しなかったのは1回だけ。それ以外はすべて自分のシビックでロングドライブをしていました。当時は三重に住んでいたので、北は仙台まで、南は山口県美祢市までの長いひとり旅。たまに眠気覚ましに大音量で走っていましたね。鈴鹿レーシングスクールを卒業してから講師補佐のような形で毎回手伝いにも行っていて、それがだいたい月曜、火曜なんですよ。仙台でレースがあった翌朝、仮眠しながら鈴鹿サーキットのゲートに何とかたどり着いて、という大変な思い出もありました。
 F3を卒業した翌年から、レースの方はGTに参戦し始めました。2年目の01年、チーム国光で走っていた時に2代目のオデッセイを買いました。それは自分で初めて欲しいと思った車です。1代目も結構売れて、2代目が出てきた時にものすごくインパクトがあって洗練された感じがしてて、ずっと狙っていたんですよ。買ってすぐにホイールを換えて、チーム国光でサスペンションも入れました。初めて欲しい車を手に入れて、初めて足回りをいじった時でしたね。なぜ急に欲しい車が出てきたかというと、GTはお金をもらってプロとしてレースができたから気持ちに余裕ができたんだと思います。それまでカートからF3まではプロになるためにお金をつぎ込んでレースをしてきたので普段乗る車のことなんてどうでもよかったし、そこにお金をかけるなんてありえないわけですよ。

伊藤 大輔
F3時代のロングドライブで活躍したシビックフェリオ。

衝撃のレクサスLS

 04年には3代目の現行オデッセイが出たので、そのタイミングで乗り換えました。アブソリュートなので、この時は何も換えませんでしたね。当時、トヨタ系のドライバーの間ではランクルがはやっていて、ホンダの中ではミニバンに走る人も多かったです。僕は道上龍選手とラジコンをやっていたこともあって、機材も積みやすいし、はやりもあったのでオデッセイにしました。仕事でレーシングカーに乗っていると、普段の足でスポーツカーに乗りたいっていう気持ちが普通の人より湧いてこないのかもしれません。できればゆったりと運転できて、それなりのパフォーマンスがあれば充分。だから、ミニバン生活が長いですよね(笑)。
 07年には子供が生まれていたのもあって、エリシオンのプレステージに買い替えました。何が良かったって、一番はスライドドアです。子供を抱っこして乗せるのに横開きのドアだと隣の車が気になってしまいますよね。空間的にも広々しているし、運転する方としてはV6の3リッターだったので、あのクラスには当時あまりないパワーにも満足していました。自分が市販車に求める「ゆったりと乗れる」部分とすごくマッチしていました。
 08年にレースの方でホンダからレクサスに移籍して、ミニバンのような運転席の視点が高い方が長距離は楽だっていう自分の考えを打ち砕いたのがレクサスのLSですね。高級車なのでシートの作りや足回り、何もかもが高級仕様になっているので当たり前なんですけど、長距離の楽さには本当に驚かされました。ハイブリッド車ならではのモーターアシストもいいですね。今乗っているLSは今年3月に納車されましたけど、ボディ剛性も上がっていて、いろんな部分が新しくなっていて満足しています。僕がもしレクサスに所属していなくてどの車を買おうかなってなった時、普通ならBMWやベンツ、アウディという選択肢もあるんでしょうけど、素直にLSって言えるぐらいの満足度があるし、所有するというステータスもできあがっているような気がします。

前回は伊藤選手が乗り継いできた
市販車を中心にお話いただいた。
今回はその市販車とレーシングカーの
ドライビングの共通点など、
普段あまり聞けないプロドライバーの
一般道での日常運転話を聞かせてもらった。

 今年はLEXUS TEAM KeePer TOM'Sに移籍して、第4戦で2位、第6戦で3位に入ってシリーズランキング8位で終えました。僕が参戦するGT500というクラスはただ予選で速く走って決勝でライバルに勝つレースではなく、もうひとりのドライバーと組んで1台のマシンを走らせながら、GT300クラスとの混走という中でライバルたちと駆け引きをしなければいけません。そういう中で移籍1年目で初めて組んだドライバーと表彰台に2回立てたことに決して満足はしていませんが、チームとして成長できる結果を得られたと思っています。

伊藤 大輔

スムーズな運転にこだわる

 さて前回は僕の乗ってきた車をテーマにしましたが、今回はそのスーパーGTと市販車の運転が実はつながっているということをお話したいと思います。こういう仕事をしていると、よく「普段からスポーツカーに乗って飛ばすんですか?」と質問されることが多いです。でも、まったくそんなことはないです。高速でも街中でも関係なく、僕は隣の助手席に乗っている人が不快に思わない運転をするということを常に心がけています。よく言われる急ブレーキ、急ハンドルを絶対にしない運転です。たとえば高速道路で富士スピードウェイに行く際、御殿場手前の大井松田のコーナーとアップダウンの多い区間を運転があまりうまくない人が走った場合、コーナーのRに対してスピードが高すぎたと思った時にアクセルを戻す量が唐突だったり、ハンドルを切り足す量が多かったりして、どうしてもギクシャクしてしまいます。レーシングカーならサスペンションが硬くて分からないレベルかもしれないけど、軟らかくてサスペンションのストローク量が大きい市販車でそういう運転をすると、カクンッ、カクンッて車の姿勢にすべて現れてしまいます。当然、助手席の人は不快ですよね。
 レーシングカーを速くスムーズに走らせる上で大事なのは、なるべく1回の動作で終わらせること。タイヤに対して一定の負荷をどれだけスムーズにかけられるかがキモになります。それは市販車においても全く同じです。僕が心がけているのは、コーナーのRに対して適切な速度に落とし、なおかつステアリングもロールとタイヤがつぶれていくスピードを考慮しながら切っていくこと。コーナーの真ん中である程度のGがかかってしまうスピードだったとしても、乗っている人はそこまでGを感じないでしょう。初動のところでカクンってなれば助手席の人は「おっと!」ってなるけど、少しずつGがかかり始めて、コーナーを抜けていく時にス~っとGが抜ければ、いつの間にコーナーが終わったのかなっていうぐらいスムーズに感じます。一連の動作がものすごく緩い曲線でつながれている印象です。
 そういう運転をするに必要なのは先に言った急操作をしないこと、そして予測をすることです。GTのレースにおいても、300クラスの動きや同じ500クラスと接近して走るので、こっちに行く可能性があるからそういう構えをしておこうという予測を立てながら運転しています。一般道もそれと一緒で、車線変更する時に前の車が急にブレーキを強く踏むこともあります。それを常に予測しながら、もし前車がブレーキを踏んだら自分が避けるスペースはどこかにあるのかどうかを確認しておき、ないなら車間をあけないといけないし、横に避けるスペースがあると確認できていれば、急に前車がブレーキをかけてもスッとそちらに移れます。横を確認していなかったら横に逃げられないし、確認してから横に逃げたとしても急激な動きになって助手席の人は確実に不快に思います。一般道の信号も同様に、信号が急に黄色になってブレーキを踏むのではなく、あらかじめ歩行者信号を確認しておけば黄色になるかどうかも予測できます。変わりそうならブレーキに足を乗せておき、停止線までどれぐらいの距離があるのかも確認しておけば、「やっぱり黄色になった!」という時に急ブレーキを踏まずに済みます。

伊藤 大輔
今年から名門トムスに移籍。アンドレア・カルダレッリと組み、2台体制のうちの37号車を駆ってシリーズ8位を得た。

危険回避の速さと正確さ

 免許を取ってすぐにそういう運転を心がけてきましたし、300km/hで走っているレースでもまったく同じ心構えです。もちろんレーシングカーに乗ってレースをしている中での急ブレーキ、急ハンドルはあるんですけど、考え方はすべて一緒です。難しいのは一般の方がそういう運転をするのが難しいことです。なぜかと言うと、前提として僕らは運転をする技術が高いんです。一般の方が運転することに80%とか大きな割合で集中力を使ってしまっているのに対して、僕らはそこでは30%ぐらいの集中力しか使わない。残り70%を視野、先に言った予測するために使えるんです。予測を立ててスムーズでなめらかな運転ができ、極論すれば事故に遭遇する率っていうのを下げることができるんですね。また咄嗟の時の反応や対処も、やっぱり一般の方より正確で速いです。どうしても危険回避のために急ブレーキをかけなければいけないシチュエーションが出てきた時、安全な方向にステアリングを瞬時のうちに切れるか、もしくはABS装着のブレーキを100%の力で咄嗟に踏めるかどうか。運転にかなりのパーセンテージを使っていると予測が遅れたり、反応が悪かったりしますし、ブレーキ性能をきちんと把握していなければABSが付いているのに70%の力でしかブレーキを踏めていなかったり、そういう差がはっきりと出てしまうんです。
 レースにはまだ暴走族の延長線上のようなイメージが残っていますけど、僕らの磨いた技術というのは安全運転や事故軽減につながるものにもなるので、これから車社会に対して貢献していかなければいけない部分だなと感じています。僕は免許を持って運転している以上、運転の技術を向上させることは義務だと思っています。ただ、なかなか一般の方々にとってそういう場がないのも現実ですね。サーキット走行と言われると敷居が高いし、もっと気軽にディーラーや皆が行きやすい場所で楽しいイベント感覚で参加できる何かができないかなと考えたりもします。そのイベントの中でひとつでも、ふたつでも危機回避の訓練ができればいいし、話を聞くだけでも意識は変わると思います。今後のレーシングドライバーの役割として、そういう展開も考えていく必要があると僕は思います。
Copyright (c) ENKEI Corporation All right Reserved.
PAGE TOP